『STEINS;GATE』(アニメ版)

 来月からシュタゲの新作アニメが始まると知り、そういばだいぶ前に前作のアニメ観て感想も書いたのにアップしてなかったな……と思い出して掘り返しました。前評判が良かったから、あと志倉さんがうみねこ散の作詞とかやっててちょっと気になってる人だったから、くらいの気持ちでアニメ版を見始めたんですが、やっぱり異様に面白かったです。後半はラスト5話と映画版をまとめて一気視聴してしまいました。

 前半1クールは後半の展開のために伏線をひたすら張っていく流れで、試作型タイムマシンを巡る会話劇をぐだぐだやるエピソードが主だったと思うのですが、そのくせ一話一話の体感時間が妙に短くて、益体のない会話の連続なのに退屈を感じるどころか「え? もう1話終わり?」と思うことが多かったです。「後半から一気に面白くなるからまずはそこまで見て」みたいな紹介する必要なくていいですね。

 中盤のある出来事以降は明らかに作品の雰囲気が変わり、タイムスリップものとしての展開が本格化するのですが、ここらかは本当にあっという間でした。前半に敷かれた伏線がラストイン・ファーストアウト形式で順番に回収されいくのは気持ちいいですし、そういう流れならいちばん最初に描かれた伏線がいちばん最後に最大のジレンマとなって立ち現れるというのも熱い。科学考証はびっくりするくらいデタラメでも、作品としてのルール自体は手厚く示されているのでパズル的には納得感があり、想定科学ADVという売り文句も伊達ではないなかったです。

 見てる間にキャラクターにわりと愛着が湧いてしまったのですが、岡部氏がやっぱり良いですね。ひたすら与太話を繰り返してる前半と、大事なものを失って無様に駆けずり回るようになった後半のギャップには来るものがあるし、宮野真守さんの演技もすごく良い。途中からメンタルがぐっちゃぐっちゃになってきたあたりの声、かなりこみ上げるものがありました。

 この手のキャラって物語を通して最終的に「大人」になって中二病的言動を「卒業」しちゃうパターンも多いと思うんですが、そうならず最終的に鳳凰院凶真に戻ってくるのも私好みです。マッドサイエンティストの真似をしすぎて遂に映画版で「あんな発明はこの世に存在してはならない……」的なこと言い出すのも一周回ってあっちに行っちゃった賢者みたいな感じで好きです。

 映画の方は、紅莉栖の思考のブレや躊躇が話の展開にブレーキをかけてしまうようなところがあって、本編ほどテンポや構成が良いとは感じませんでしたが*1、本編に対する「アフター」ものとして綺麗にできていたと思います。

 主人公がループを繰り返すタイプの作品ってどうしても倫理観が現世的な人間のそれから乖離して、そのままクライマックスに突っ込んでいったりするので、「本編で零れ落ちたもの」を拾い上げる外伝的作品がやたら面白くなったりするんですよね*2。世界の危機とか大きな風呂敷は広げず、本編で岡部氏が必死こいて救おうとした紅莉栖たちが今度は彼を救う側に回る展開、ベタながらめちゃくちゃ感情のある流れで、良い……ってなりました。

*1:あとまゆしぃが岡部氏の不在に結構淡白なのもちょっと悲しいな……とは思いましたが、あの子は紅莉栖が目の前で無茶して苦しんでたら(それが岡部のためであっても)まずは目の前の紅莉栖の無茶を止めて苦しまなくて良いと諭すような子だと思うので、あれはあれで彼女らしいのかもしれません。

*2:ぱっと思いつくのは『ひぐらしのなく頃に』のクリア後番外編である賽殺し編とか。

『岳飛伝(四)』

岳飛伝 4 日暈の章 (集英社文庫)

 金と南宋が本格的にぶつかりはじめて、本当に『岳飛伝』という感じになってきました。このシリーズになってから出てきた新キャラ・孟遷もすっかり岳家軍の要の一人という感じになっていて、この面子の中に牛坤と姚平がいないのは寂しいなという気持ちになります。岳飛陣営を盛り上げる良いコンビだったあの二人、いよいよ岳飛が話の中心になってくる岳飛伝を前にどうして退場しちゃったのかなと思いますが、ああいう「これから」という連中があっさり死んじゃうのがこのシリーズですもんね……。

 李英・李媛の兄妹なんかも今回触れられていましたが、どうにも恵まれないまま死んでしまって、しかも死ねばそこまでというキャラクターが多くなってしまうのは、どんどん人が出てきて死んでいくこういう群像大河小説では仕方のないことです。それでも、こうやって死んだ人たちの名前がたまにでも挙がり、遺した業績や思い出話が語られるというのは、何だか救われるものがありますね。

 それにしても、これまでに死んだ人々にまつわるキーワードが各話の章題になってたり、水滸伝の頃は絶対的だった「志」が時を経て何だかよく分からない曖昧な概念に変化していくのと対比して語られるもう一つの概念が「夢」だったりするの、「か、感情〜〜」ってなります……。打倒宋という目的に向けて屍の山を築きながらも痛快に突き進んでいた『水滸伝』の頃とはもうかなり作品の趣も変わってきたと思うのですが、五十巻におよぶ大長編の中で培われてきた様々なものの積み重ねには、何か言い知れない巨大な感情を覚えずにはいられません。これだけのサイズの物語には自分の人生の中でそういくつも触れられないだろうと考えると、ほんと贅沢な経験ですね……。

『GDZILLA 怪獣黙示録』

 シン・ゴジラでこそないものの、このアイデアをご自身で実現しちゃったような一冊。怪獣映画とフェイクドキュメンタリーという食い合わせがまず美味しすぎるので、この時点で強いです。さらに古今の怪獣特撮ネタをこれでもかと詰め込んで、こういう方向性が好きな人向けの突破力が凄まじい一冊になっています。私自身は怪獣詳しくないので、「怪獣の名前がいっぱい出てくる」「硫酸、コバルト、カドミウム」くらいしか分からないのが勿体なかったですね……。

 局所的な怪獣災害だけでも話をひとつ作れるわけですが、「1999年以降、世界中で何体もの怪獣が現れるようになり、徐々に人類が追い詰められていく」ってストーリーラインを打ち出し、人類敗北までの年譜を冒頭でドンと見せられたインパクトが凄まじかったです。序盤に出てくる怪獣でも相当手強く、甚大な被害を出しながら必死こいて撃退していく一進一退が描かれているのに、この先桁外れに強力なゴジラが出てくることがあらかじめ分かっている絶望感。どうすんのこれという感じです。

 多分話としていちばん盛り上がるのはゴジラ活性化〜核1000発によるヒマラヤ封じ込め〜浜松最終決戦における人類敗北の流れなので、ここに至る直前でこの記録が断章となってしまっているのは残念です。映画本編の内容との兼ね合いだったりするのかもしれませんが、ぜひ同じくらいのボリュームでの後編の出版にも期待したいところ。

詰めパズルめいたストイックなバトルが光る『サガ』シリーズ最新作-『サガ スカーレットグレイス』

 発売からだいーぶ時間がかかってしまったのですが、先日ウルピナ編でクリアしました。

 ラスボスは弱いバージョンと強いバージョンがいるみたいで、普通にプレイしてれば弱い方にあたるものと思っていたのですが、どうも条件が複雑らしく、私はいきなり強い方に当たってしまいました。挑戦可能になった時点ではぜんぜん歯が立たず、ヒーヒー言いながら10時間はパーティ強化のための寄り道に勤しんだのですが、そういえばこうやってラスボス直前で地獄の修行フェイズに入るのもサガの定番だったなあと懐かしく思いだせましたね……(こういうタイミングでのパーティ強化の旅が結構つらくなってて、あの頃と比べるとゲームやる体力が落ちたなあとも痛感しましたが)。

ざっとした感想

 思いきりエッセンスを切り詰めてきたな、という印象です。十数年ぶりの完全新作で、売り上げ次第でシリーズの今後の展開も左右される重要な作品ですから、さすがに今回は極力過去のシリーズを踏襲した無難な方向に振ってくるだろうと思っていたのですが、全然そんなことはありませんでしたね。ものすごいピーキー

 今回最も大きな比重が置かれていたのは戦闘そのものです。雑魚戦ですら考えることがかなり重く、毎ターン行動を吟味していくことになるため、長めのロード時間も相対的にあまり気にならなくなるほどでした。ひたすら戦闘を楽しみたい、雑魚戦もルーチン作業ではなくしっかり頭を使っていきたい、というプレイヤー向けにチューンされた内容だと思います。

 シナリオや世界各地のイベントにも、かなりのテキストや展開差分が用意されていると感じました。今回は同じ場所のイベントでも主人公*1によってかなり会話内容や展開が違ってくるようなので、ある出来事をいろんな視点から覗き見る、という趣向がより際立っているかもしれません。

 主人公が4人というのはシリーズ標準の7、8人と比べて少なめですが、これだけ一人一人の展開を細かく作り込んでいるならそれも納得。世界各地の街や名所などの特色についても相当設定が作り込まれてるっぽいですが、ゲーム内で得られるのは断片的な情報のみ、というところはシリーズお馴染みの切り口です。

 一方で、要素のオミットも大胆です。ダンジョンマップの概念が存在せず、全てがワールドマップ上で表現されている、ストーリー演出が止め絵の会話のみで構成されている、マップを歩き回ってイベント発生ポイントで戦闘してたまに街で装備を整えるサイクルをひたすら繰り返すシンプルなゲーム構成になっているなど、余分が徹底的に削ぎ落とされたストイックな作りになっています。予算や納期を調整関係で後から削ったという風ではなく、もう開発当初から選択と集中が徹底していたという感じでした。

戦闘雑感

 バトルの仕組みを毎回がらっと変えてくるサガですが、今回はシリーズ中でも特に異色で、いつにもまして歯応えがありました。本作では戦闘中の回復手段が非常に限られていて、回復量自体も死をいくらか先伸ばしにする程度なので、持久戦があまり現実的ではありません。ボス戦でも5ターンを過ぎる頃にはほぼ勝負の趨勢が着いていることがほとんどで、いかに自分たちが倒れ切る前に敵を殲滅するか、という短期決戦向けのバランス調整となっています。

 敵味方の行動や順序(タイムライン)はターン毎にあらかじめ見えるようになっていて、敵の攻撃属性に対応した割り込み技や、先制効果・遅延効果によるタイムラインの操作などを積極的に狙っていくのが今回の重要な戦術になっています。特に、タイムラインの条件次第で発生する「連撃」という追加攻撃のダメージとボーナスが極めて大きく設定されているため、うまく連続して発生させれば格上の敵を一気に突破することも可能です。逆に、うっかり敵の連撃を許すと雑魚戦でも一瞬でパーティが半壊したりするので、戦闘が常に緊張感を帯びるようになっています。

 ロマサガサガフロではキャラ毎にWP、JPといったリソースが設定されていましたが、本作はパーティに毎ターン供給されるBPを消費して行動する仕組みです。ミンストレルソングのBP制とも異なり、本作のBPはパーティ全体で共有するので、複数人で小技を撃つか、一人が大技を撃つかといった判断が生じてきます。戦闘が進むにつれてターン毎に使えるBPが増えていく*2ので、後になるほど戦闘が激化していく傾向にあり、この辺りも短期決戦向けの調整ですね。

 ターン毎に限りあるBPをやり繰りして戦う都合上、「その時点で持てる最大威力の大技をリソースが切れるまで打ち続ける」ような戦いにはなりません。属性特効、状態異常、タイムライン操作など、大抵の技に何らかの特殊効果があることもあり、終盤になっても大半の技に使いどころがあるのが嬉しいです。行動順を調整し、敵の行動を牽制し、孤立した敵を包囲して連撃を狙っていく、といった流れを限られたBPの中で実現できるか判断していくのは、パズルや詰め将棋にも似た楽しさがあります。

全体の進行

 ラスボスなどごくごく一部の固定敵を除き、イベント戦のボスも基本的にこちらの成長度に応じて種類や強さが変わるので、どこへ行ってもだいたい良い戦いができます。一方、明らかに格上の固定ボスにぶつかることがあまりないため、適正レベルを超えた敵に噛みついて激戦の末むりやり勝利したり、「こいつにはまだ勝てないから、他を回ってしばらく鍛えてから出直そう……」っとか判断する場面は少なくなりました(ただし、後述するようにラスボス戦を除きます。というか本作は上記のような要素を全部ラスボスに詰め込んだような構成になっている気がします)。

 また今回、強い装備品がゴロッと手に入ることは稀で、基本的には汎用素材を集めて鍛冶場で地道に強化していくスタイルです。イベント報酬として苦労して手に入れた装備が既に格下で使い道がない、といった残念な思いをしないで済む反面、「あそこに行けばあの強敵と戦えて、撃破すればあの装備が手に入るから……」とか攻略順序をあれこれ考える楽しみは薄くなったかもしれません(強い装備を揃えることを見据えた上級プレイなら、素材の収集順序で結構頭を使うことになるかもしれませんが)。

 基本的に向かった先の敵を倒して地道な報酬を得る、というストイックな報酬系が序盤から終盤まで続き、節目となるような強敵との戦いやレアな報酬などの飛躍ポイントが少ないため、ゲーム全体を通じたメリハリは弱いように感じられました。ひとつひとつの戦闘が楽しくてひたすら目の前の敵と戦っているのが幸せ、または逆に諸国を漫遊して様々なイベントに顔を出すのが報酬抜きに楽しい、と思える人向けの調整なのかもです。

シリーズ屈指かもしれないラスボス難易度

 と、ゲーム全体の展開は割と淡々としているのですが、ラスボス戦が異様に高い壁として立ちはだかってきます。先述したようにラスボスには弱いバージョンと強いバージョンがあり、私は弱い方とは戦えてないのでよく分からないのですが、強い方は本当にシリーズでも屈指の難易度を誇るラスボスだったのでは、と感じました(私がゲーム弱くなったのでなければ……)。

 ラスボスとはメインストーリーをある程度進めた段階で戦えるようになるのですが、特に強い方とぶつかるルートに入ってしまった場合、(よほど回り道して鍛えてきたとかでなければ)その時点では太刀打ちできない強さだと思います。ていうかこのラスボス、メインストーリーのラスボスのくせにプレイヤーをハメ殺して来るんですよ!

 ターン開始直後にほぼ確定スタン効果のある全体攻撃を仕掛けてきて、味方は何もできずターン終了。全体スタンが全体混乱になることもありますが、混乱した味方はパーティ全体で共有している貴重なBPを勝手に浪費するので、状況はもっと悪くなります。そもそも全体攻撃のダメージ自体が強力なので、初戦では本当に何もできないまま4ターンくらいであっさりと全滅、負けイベントで話が続くなんてこともなくそのままタイトル画面に戻されて唖然としました。

 そこから、ラスボス撃破のための試行錯誤が始まりました。先手を取られないよう装備で可能な限り運動性を上げたり、タンク役にアタッカーを庇わせる動きを徹底したり、状態異常対策を講じることである程度ダメージが通るようにはなってくるのですが、なかなかライフを削りきれません。そして運にも味方されてようやく倒せたと思ったら、HP全快で立ち上がる鬼のような仕様……(結局2回倒さないといけなかった)。

 さらに全滅とトライアンドエラーを繰り返し、うまい具合に連撃が出るなどの偶然に偶然が重なって何とか倒しきれたのですが、今度は正攻法でガンガン殴ってくる第2形態にボコボコにされて「ですよねー」って言いながら退却。やはり戦力そのものの底上げが必要と思い、パーティ育成のための諸国漫遊が始まりました。単純にパラメータを上げれば物理で殴れるタイプのボスにも見えないので、何をどう育てていくかの検討から育成が始まります。

 なんかラスボスなのにスタンが効くそうなので、運動性を上げまくって先手を取れるようにしたキャラにスタン効果のある技を連発させる方向で戦略を組み、各自スタン技のコストを下げるなどの育成を始めます。HPそのものも足りてない感じだったので、400台だったパーティの平均HPを600近くまで底上げ。一週間ひたすら雑魚と戦って、全体攻撃を1回多く凌げるくらい育ったところでリベンジに戻りました。

 スタンが効くといっても数回に1回程度なので、ハメ殺せる感じでは全然ないのですが、それでも敵の攻勢が和らぐのはありがたいです。やっぱり1回や2回のトライは勝てませんでしたが、戦闘直前のセーブが可能でリトライもしやすい仕様なので、とにかく回数を重ねて針穴に糸を通すような気合いで第1形態に勝利。そこからの戦いもまた大変だったのですが、耐性装備つけたり相変わらずスタン狙ったり何やかんや頑張って勝利。白熱した戦いでした……。

 特に第1形態のハメ殺しが顕著でしたが、それまでの敵が自分のレベルに合わせててくれてて「頑張ればどうにかなる」強さだった分、「対策を考えた上で育成しなければどうにもならない」ラスボス戦の印象は強烈でした。たぶん2周目以降は「どうやってこのラスボスに勝てるパーティを作っていくか」が最初からの目標になり、プレイ全体も引き締まるのかもしれません。

ままならないところ

 ちょっと1周しただけではうまく楽しめなかったのは、「ロール」の習得システムでした。

 ロールは特定の組み合わせの技を閃くと獲得できるパッシブスキルで、これを活用するには複数の武器種を持ち替えて系統の違う技を覚える必要があります*3。ただし、このゲームでは異なる武器種を同時に装備することはできません。ただでさえ雑魚戦すら厳しいところに主力以外の武器種を装備したメンバーが混じると戦闘の難易度が目に見えて上がりますし、主力武器の成長そのものも止まってしまうので、ロールの習得はかなり負荷の大きい作業になります。しかも技の閃きはランダムなので、運が悪いといつまで経っても目当ての技を覚えてくれない可能性があります*4

 わざわざ弱い武器種を装備して戦う、という行動は普通のプレイの中で自然と挙がってくる選択肢ではあまりないので、「ロールを獲得するためにあえて」行なう寄り道作業です。武器を持ち換えてから成果が出るまでのリードタイムもかなり長い*5上にランダム性も絡むので、結果的に「ロール」の習得システムだけ自然な成長の流れから浮いている印象になっていて、楽しみ方が掴めないというのが正直なところでした(単純に「色々な武器を使って欲しい」ということなのかもしれませんが……)。たぶん盾の代わりにサブ武器を装備できれば戦闘の余裕のあるタイミングでちょっと振るとかできて良いバランスに落ち着いたと思うので、ここどうにかして欲しかったな、という気持ちはあります*6

 まあロールは取らなくてもクリアできる上級者向け要素な感はあるし、過去のシリーズ作品でもキャラクターの最終的な完成形を見越して弱い術を使わせるとか回りくどい鍛え方してたことがよくあった気もするので、単に自分がそういうことできなくなっただけな気もします。いつの間にかシンプルな成長曲線と報酬系に慣れてしまったのかもしれない……*7

 あと細かいとこだと、本作の戦闘は5人パーティ+予備メンバーを交代で休ませながら回して戦う感じなのですが、素材も装備品も有限なので皆で使いまわしていく必要が(毎回しっかり戦うなら)あって、でも装備とか陣形を戦闘ごとに細かく調整するのは面倒だし時間もかかるし……とか、割とどうしようもないところで葛藤を感じることも多かったです。

 これはもうこういうゲームだから仕方ない、と割り切るべきところだし、でもゲームから足が遠のくのってこういう細かな億劫さの蓄積が直接の原因だったりするので、ままならんなと思います。欲を言えばUI周りで何とかしてもらえるとありがたいですが、それって開発の事情を斟酌しない無茶な要求だったりするし、際限がないですからね……。

 一口にサガシリーズのファンと言っても、サガのどういう要素に強く惹かれているかは個人差が大きいと思います。本作はそんな要素の取捨選択がいつも以上に激しいと感じました。この極端なところがまたサガらしいんですが、自分好みの要素にうまく焦点が当たっているかどうかによって、シリーズファンであっても感触はかなり変わってくるかもしれません。

 私の趣味としては、もう少し遊びがあるのが好みかもという気もしましたが、限界まで戦闘に重きを置いたこんなサガもなかなか面白い体験でした。多分サガのことだから次回作はこの方向性をさらに煮詰めて、なんてことにはならないし、また全然違うものを出してくれると思うので、これからももっといろんなサガがやってみたいという気持ちです(そのためにはお金がいるんでしょうけど……)。今回は10年待ったけど、次はもう少し早めに良い知らせが聞けると良いですね……。リメイク等含め、今後ともよろしくお願いします。

*1:場合によっては行動によってさらに分岐するみたいですし。

*2:HearthStoneとかやってる人ならマナをBPに置き換えてもらうと分かりやすいかも。

*3:いちおう一種類の武器種だけで覚えられるロールも各ひとつずつだけありますが

*4:私の場合、防御系のロールを覚えるため何人かに交代でサブ武器を持たせて戦っていたのですが、結局クリアまで目当ての技を覚えてくれなかったので、その分の苦労は無駄になったことになります。

*5:サブ武器のスキルレベルを鍛えるところから始めるので、5戦や10戦では多分終わらない。

*6:あえて同時装備できなくしたのにもそれはそれで理由があると思うので、そんな簡単な話でもないんでしょうけど。

*7:その割にFGOとかもっと面倒な育成を平気でやってるので人間の報酬系よく分かりませんね。

『パラークシの記憶』

パラークシの記憶 (河出文庫)

 前作『ハローサマー・グッドバイ』からだいぶ先、登場人物が一新されているものの設定的に繋がりのある続編とのこと。前作の内容をおぼろげにしか覚えてなかった私でも問題なく読めたので、細部を覚えている必要はないと思うのですが、前作ラストの大オチを割る内容ではあるので、一応注意は必要かもしれません。

 基本的に地球によく似ているけど自然現象や生態系など細部が異なる惑星に住む、基本的に地球人によく似ているけど記憶の継承方法や倫理基盤などに差異があるヒトを主人公にしたお話。SF成分やサスペンス成分などがありますが、前作と同様なによりもザ・青春小説。それなりに頭が良くて周りを見下しがちな身分の高い少年が、気立てが良く聡明な身分の高い美少女と一目惚れで恋に落ちて大冒険する話。みたいな紹介の仕方をするとなんだそのアレはとなりそうですが、実際読んでみるとこういう主人公の造型がしゃらくさい青春小説としてものすごくハマっています。

 書き割りの悪人、というのがあまり出てこない代わり、愚かな人物についてはその愚かしさが容赦なく掘り下げて描かれます。悪い人にも良い面があるというアプローチではなく、彼はこれこれこういう経緯で現在こんな有様になっており実際愚かなのだ、と容赦なく書き示す感じ。人の愚かさには理由がある、という風に見ることもできますが、だからといって別に救いはありません。愚か者の中にも、苦境などをきっかけに聡明さを手に入れる人もいれば、最後まで愚かなままの人もいて、そこが余計に突き放した感じもあるのですが、これはこういうものとして何か嫌いではありません。

 地球人とは違う種族とされている本作の「人々」ですが、異星に住んで牧歌的な文明を営んでいること以外ほとんど地球人との変わりはなく、平和的で保守的に見える性格もだいたい環境要因だったというような話も出てきます。ただし、文化の伝承形態や一部の本能的本能的性質にわずかながら明確な差異が設定されているせいで、そのちょっと違う部分がかえって浮き彫りになってくるのが面白いです。

「本能に従うのは自然で正しいことである」式の自然主義の誤謬(通俗用法)はうんざりですし、デザインされた本能に従って自分の行動が決められているなんて言われたら反発心だって起こります。ただ、自然であることが正しさの根拠にならないように、自然に逆らうことも別に正しさの根拠にはならなりません。あらかじめ設定された本能をとりあえず一度そういうものとして受け入れてから自分の出方を決めるのは勿論、一連の大きな営みの中の一部を担うものとしていっそ誇りを持つという在り方が、本作では特に否定されていません。現実社会の保守的な倫理と接続するとだいぶ危うい話ではあるのですが、空想的な思考実験としてはこういうのも一周回って面白いのかなと思いました。

『芥花』 - 拷問RPGで推理ゲームな七人の少女と悪魔の感情と記憶

 突然辺獄に召喚されて「このままでは1年以内に死ぬ」と告げられ七人の少女(致死者)たちが、「死因の記憶」を現世に持ち帰って死を回避するため、契約した悪魔の力を行使して参加者どうしで拷問しあう"ゲーム"に身を投じていく……という、紹介だけ聞くとえらく陰惨なRPG。ただ「釘」とか「串刺し刑」とかスキル名こそおどろおどろしいものの、実際直接的なグロテスク描写が連発されるわけではなく、戦いの目的もあくまで「相手の意思を折ること」なので、さほど猟奇的という印象は受けませんでした。

 悪魔や辺獄の住人は基本的に賑やかだったりトンチキだったりして、悪しき者ではあるのですがどこか憎めません。話の本筋もそれぞれの少女たちの抱える「心の秘密」に焦点を当てるもので、「人の心を覗き見る」というある種の悪趣味なテーマを前面に押しながらも、全体的にはむしろ繊細な物語でした。少女と悪魔はゲームのためにそれぞれペアを組むんですが、比較的現実寄りの性格、デザインの少女たちと、派手な衣装で外連味たっぷりの挙動をする悪魔たちの組み合わせが面白いです。少女たちは同じ学校の同級生なので、生前からいくらかの因縁もあり、感情のやりとりがあります。いいですね、感情。

 拷問バトル部分は、RPGとしてかなりしっかり調整されている印象でした。レベル概念はなく、雑魚戦は回避可能なので、基本的にはボス戦に焦点の当てられた戦闘。高難易度のボスに初期状態で勝利するのはかなりの難易度で、ピーキーな戦い方が要求されます。ただし周回前提で複数のクリアルートが用意されていて、習得スキルやアイテムなどは周回を持ち越せるので、最終的にうまいバランスに落ち着いていると思います。戦術を大別すると「傾向」(テンション的なパラメータ)を上げて短期決戦でいくか、「傾向」を下げて長期戦で構えるかなのですが、ボスはそれぞれ発動条件の異なる即死攻撃を持っていて、相手によっては序盤を温存して終盤一気に畳みかける必要があったりするので、一戦ごとに結構頭を使いました。

 だらだら戦っていると消費アイテムがどんどん消えていくし、この消費アイテムもまた「何回か雑魚戦すれば回収できる程度の値段」「一周で何個も手に入らない程度に貴重」など絶妙なところに設定されていて、「もったいない」というジレンマとの戦いでもありました。いちばん苦戦したのはスラバーナ戦でしたかね……(別の勝ち方もあったみたいだけど正面から倒してしまった)。

 拷問バトルの本来の目的は「拷問で相手の意思を折る」ことですが(これで各キャラにまつわるエピソードが解禁される)、相手のライフをゼロにしてミもフタもなく殺害する「拷問失敗」は極めて簡単に達成できるため、とにかくストーリーを進めると割り切れば戦闘そのものに勝利するのは容易という作りになっています(手間を惜しんでなにか大切な人間性が失われていく気持ちを体感できます)。イベントシーンのスキップやショートカットなども豊富で、周回プレイ前提にものすごく親切な設計がされているのが嬉しかったです。

 極めつけは公式サイトにネタバレ攻略ページが用意されていて、各ルートのクリア条件から隠しスキルまで攻略wikiがいらないくらい全ての情報が網羅されていること。戦闘はだいたい自力で解きましたが、終盤細かい要素をコンプしていく流れになったときは大変お世話になりました。

 あとユニークだったのが、RPG戦闘一切なしで本格的な推理ゲームが展開する「ビョウドウ編」。これが本当によくできていて、「悪魔や異形が跳梁跋扈するファンタジー世界でいかに推理ゲームを成立させるか」をかなり丁寧にやっています。公式ツイートではっきり明言されていますが、まあつまりそういう趣向。「赤字」など知ってる人が見れば「おっ」と思える要素を織り交ぜつつ、RPGツクールの制約を逆に利用した情報整理モードが用意されてたりして面白いです。(「推理空間」が登場したときはものすごくワクワクしました)。

 推理って何もお膳立てがない状態だと自由思考の遊びになるので、プレイヤーは「作者側の想定していない別解」をいくらでも思いついてしまうし、それが物語中で提示された真相と食い違うと不満が湧いたり消化不良になってしまいます。だからこういう推理ゲームでは、プレイヤーの想定できる可能性の範囲が的確に制限されるよう誘導した上でちゃんと推理もしてもらい、「自力で解いた」経験を味わえる作りにすることがとても重要だと思うのですが、本作はここが非常にしっかりしていました。

「悪魔の能力でできること」をはっきり提示して脱線の隙間を丁寧に埋めつつ、真相に近いところでわざと口を濁して「例外」が通る隙間を空ける。解決に必要な手掛かりははっきり提示し、「ここにある情報の組み合わせで仮説を組み立ててね」と匂わせる。事件の真相を自由記述で回答するシステムはこういうゲームには不可能なので、最終的には犯人当てというシンプルな回答方法になってはいますが、全部の真相までは言い当てられず犯人だけ当ててクリアルートに入ったところ、「そういえばあの情報だけ使ってなかったな」と引っかかっていたところが真相の最後のピースにハマったので、プレイ後の納得感はかなりのものでした。

 だいたい15時間弱ほどプレイして、一通りのルートは見られたと思います。もう少し彼女らと関わっていたい気もしましたが、主人公芥花の物語としては十分描かれていたと思うし、全キャラとの個別ルートを用意するようなタイプの話ではない気もするので、このくらいの突き放し方がちょうどよいのかもしれません(作中でも仄めかされているように、プレイヤーだからって何でも見たがるのはある種の強欲な悪趣味かもしれませんし)。それぞれの致死者・悪魔ペアの話とか、ゲームマスターであるルイゼットの話はまた見てみたい気持ちがありますが、そこはまた別の機会に期待、なのかもしれません。

アリュージョニスト関係記事まとめ

 沼にハマったファンが目玉グルグルさせて謎のミームを発しまくっていることでお馴染み(お馴染みではない)のオカルトパンクWeb小説『幻想再帰のアリュージョニスト』がめっちゃ好きすぎてことあるごとにアリュージョニストの話してたらずいぶん記事が増えてしまったので紹介用も兼ねてめぼしい関連記事を一覧してみました。本編読み尽くしてしまったから誰かのアリュージョニスト感想が読みたい! という方やアリュージョニストって何? っていう方の参考になれば幸いです。それにしても私ほんといつもアリュージョニストの話してますね……(アリュージョニスト読んでくれ頼む)。

比較的紹介っぽいもの