NOVEL

批評するより感想書くのが難しい類の小説 - 舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日(中)』

わけ分かんないけど、わけ分かんないにもかかわらずたしかに面白い、でもその面白さの理由がわかんない……っという混乱に陥りつつも、その混乱に追い立てられるように一気読み。「批評は感想より難しい」*1というのが一般的な感覚*2かとは思うのですが、少な…

文脈を支配した探偵が真相を創り出す - 舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日(上)』

エセスネインピナー来てるよ〜 ※ええと、このシリーズの感想は二年くらい前に書いてたものでして、なんとなく今までずっとアップしそびれてたのですが、いいかげん放置しすぎたのでメモ整理ついでにアップします。文章がやや古いですがご容赦を。 作中でもろ…

ミステロイドの夢と未来 - 『インテリぶる推理少女とハメたいせんせい -In terrible silly show, Jawed at hermitlike SENSEI-』

ええと、先に言い訳しておくと犬紳士さんのレビューはこの感想のこの箇所書いてる時点でまだ読んでません。犬紳士さんはつよいので感想書く前に読むと影響されそうで怖いというのと、もし内容が被っても「ちゃんと自分で考えた文章だからパクリじゃないもー…

読者に水をぶっかける - 貫井徳郎『微笑む人』

本作についてはこれ言わないとなんも書けなさそうなので儀礼的に書いときます。「今回の感想は結末の抽象的なネタばらしをします」というわけでご注意をー。 えーと、誰からも好意を持たれる完璧超人めいた銀行員が、とつぜん妻と娘を殺害しました。「本が増…

あまりにも強力な物語の祝福 - 宮城谷昌光『太公望』

初の宮城谷昌光さん。中国の仙道大戦的な伝説的小説『封神演義』の時代を、史実に軸足を据えて書いた作品です。『封神演義』はキャラクター含め大部分が後世の創作だったので、歴史ものとして書かれた商周革命はだいぶ印象が異なりますね。とはいえ、藤崎竜…

小林泰三『惨劇アルバム』

小林泰三さんお得意の、「思考の機序がなんかおかしい人々」を題材としたサイコホラー/ブラックユーモア短編集。良くも悪くもいつも通りの小林さんという感じですが、「清浄な心象」あたりはちょっと時事ネタっぽい趣があって面白かったです。各話で焦点の当…

星を射る地上の瞳 - 友桐夏『星を撃ち落とす』

『楽園ヴァイオリン』からはや五年、待った甲斐がありました。レーベルの移動や五年という時間が友桐さんの作風を大きく変えたのではという心配もあったのですが、どうやら杞憂だったようです。『星を撃ち落とす』は、どう見ても友桐さんの小説です。腹に一…

『天体の回転について』

「海を見る人」の正統続編とでも言うべき、直球のSF短編集。表紙の女の子は起動エレベータのガイドさんで、つまり「軌道エレベータガール」という洒落なんでしょうか。 表題作は、このガイドさんが起動エレベータの仕組みについて延々と説明してくれる内容。…

上遠野浩平『ヴァルプルギスの後悔 Fire1.』

『ビートのディシプリン』から繋がる、ブギーポップシリーズのサイドストーリー。ていうか、ブギー本編の方は断片的な出来事をオムニバスに綴るのが基本なので、シリーズ全体として「物語を進める」という雰囲気があまりないのに対し、外伝の方はブギー世界…

倉橋由美子『よもつひらさか往還』

薦められて読んだ短編集。いわゆる高等遊民らしい主人公の青年が、馴染みの怪しいバーテンダー・九鬼老人の作る魔酒めいたカクテルによって幻想的な体験をするお話。外から連れてきたり幻想世界で出逢ったりして、毎回異なる女性が登場してキーとなるのも特…

成長物語くそくらえ - 石川博品『耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳』

読んでよかったー! 「ライトノベルって何ができるの? 既存のジャンルを縮小再生産して萌えを振りかけた寄せ集めじゃないの?」って聞かれたら、今度からこの小説を突き出してやります! ひと昔も前、他のジャンルも読めるのにあえてライトノベルを読んでい…

『蒼林堂古書店へようこそ』

白っ! 乾くるみさんの作品にはどれもこれも押し並べて"黒い"という印象があったので、今回みたいに穏やかな話が続くと逆に勘ぐってしまうのですが、本作に限っては最後までその白さを徹底してくれた模様。読み終わって特に悪い仕掛けもなさそうだったのでひ…

感想を書きたくなくなる小説 - 佐藤亜紀『ミノタウロス』

あうああ。ものすごい密度の小説を読んでしまいました。読み終わってから確認したらたったの400ページだったんですけれど、もっと長い時間どっぷり浸かり込んでいた感覚があります。読むことが体験になる類の小説ですね。「自分に理解できるフォーマットから…

感想:千澤のり子『シンフォニック・ロスト』

中学校の吹奏楽部のお話。部内で恋愛すると片方が死ぬ! というよくある怪談話がまことしやかに囁かれる中でほんとに人が死んでしまい、少年少女があれこれ思い悩む青春ミステリーです。 小説としては淡泊。人が死ぬとは言っても派手な引きや展開はなく、落…

わーい小林泰三さんがSF長編書いたよー! - 『天獄と地国』

『ΑΩ』以来約10年ぶりに、小林さんがド直球の本格SF長編を書いてくれました! なんて言ってしまうと、他にも『ネフィリム』*1とかあるじゃないかと怒られそうですが……。ただ『ネフィリム』*2が特撮パロディ的なB級ホラーバトルを指向してるっぽいのに対して…

人を殺した少年達の凄まじき業 - 貫井徳郎『空白の叫び』

凄まじい小説でした。反社会的な問題児、裕福で品行方正な天才、貧しい家庭で質素に暮らす普通の子、3人の「14歳」が全く別々の理由で人を殺すところでようやく上巻が終わり、その後の中巻、下巻では、彼らの「業」がえんえんと描かれていきます。 おそらく…

『セピア色の凄惨』

地の文がなく、会話劇と独白劇で構成された異色の短編集……といいたいところですが、小林さんの小説ではこういったスタイルが頻出するので別に珍しくもありませんね、はい。「相手と話がぜんぜん噛み合わないのだけど、向こうの意見にも一見矛盾が見あたらな…

『ダンシング・ヴァニティ』

な、なんじゃこりゃ。 ほとんど同じ文章の細部だけを変えながら何度も反復する、というスタイルが徹底された長編。やってることは完全に実験小説です。でも流石は昔からこういうことを繰り返してきた筒井さん、「実験小説」という言葉のイメージにそぐわない…

「小説が上手い」としか言いようがない - 『グインサーガ外伝(6) ヴァラキアの少年』

以前「栗本薫さんで最初に読むとしたらどれ?」とid:kaienさんにお聞きした際、『十六歳の肖像』と併せて挙げられた作品。グインサーガの外伝ではあるものの、一作完結で前提知識も必要なく、「栗本薫が最もキレていた期間に書かれた傑作」とのことで、初読…

『神さまのいない日曜日 III』

4巻出ちゃったので、書き置きしてた3巻の感想を慌ててアップするなど。 これまたヘンテコなお話でしたね。主人公のアイちんが「世界を救うよ!」と張り切っていた前巻とは打って変わって、いきなり「学校に通う」ことになった本巻。『ランドリオール』みたく…

『柳生薔薇剣』

いささかユーモア成分多めの荒山柳生。柳生十兵衛の姉が出てきて、完全に十兵衛のキャラを食います。ていうか今回の十兵衛はただのヘタレで、実戦の描写すらまともにありません。こ、こんな十兵衛見たことない! あねうえー。 というわけで、「女の強さ」に…

『斜め屋敷の犯罪』

どうしても『捩れ屋敷の利鈍』とごっちゃになってしまう斜め屋敷読了。呆れたことに初島荘さんです。「島荘」を一発変換で単語登録してくれるATOKってなんなの。別に最初から辞書登録されてるわけでもないんでしょうけど、いつかどこかで一回打っただけで覚…

スピリチュアル系ミステリ? - 中井英夫『虚無への供物』

『ドグラ・マグラ』『匣の中の失楽』に続いて、いわゆる「四大奇書」を読むのは三冊目です。文体から論理からの全てが幻想的な酩酊感を与えてくる『ドグラ・マグラ』とも、「破綻させるための論理」を積み重ねていく『匣の中の失楽』とも性質が異なり、一読…

『ボトルネック』

「人生は罰ゲームです」なんてフレーズがありますが、これはまさにそういうお話。読んでいて歯軋りしたくなる小説です。 ほとんど何の疑問も抱かず「タイムループもの小説」のひとつとして読んでいたのですが、よく考えたらこれ、別に時間移動なんて一切して…

ナンセンス論理ジョークとしての『九マイルは遠すぎる』と、読者のミステリリテラシー

もっともらしい理屈をいくつも並べて積み上げて、最初見えていた光景とは全く異なる結論を導いてしまう、というナンセンスジョークミステリー。フジモリさんの書評などで上手いこと解説されている通り、実証性を無視した飛躍的な論理展開はアクロバティック…

そして優越感ゲームが始まる - 法月綸太郎『密閉教室』

事前に聞いていた前評判をふまえて、「青春の自意識粉砕小説」として読みました。探偵として振る舞おうとする主人公の全能感は終始滑稽。読者から見れば歩くたびにメッキが剥がれていることが丸わかりなのですが、主人公はそれに気づかず、妙にキャラを作っ…

『銀河英雄伝説(3)』

さんさつめ。天才は天才でも、ラインハルトの人とヤンの人の天才性の違いが色濃く表れてきたなあと。 ラインハルトの人は苛烈にして冷酷な天才的覇者ですけれど、その下には数多くの才能溢れる部下たちがいます。人を従える支配者として有能である、という面…

修辞的表現に頼らない数学パズル小説 - 竹本健治『フォア・フォーズの素数』

短編集なのです。冒頭からオチのない詩のような作品が出てきたり、暇な学生がひたすらカレーを作り続けるお料理SFが入っていたり、「四大奇書作家」のイメージとはやや毛色の違う、バラエティに富んだ作品集です。かと思えばトリック芸者シリーズとかえらい…

古典に見る探偵の挫折 - エラリイ・クイーン『九尾の猫』

初クイーン。初クイーンでこれを読むのは珍しいのかもしれませんが、id:kaienさんのお勧めということで。 NYに現れた「猫」と呼ばれる連続殺人犯。年齢も地位もばらばらな被害者には共通点が見あたらず、犯人の目的も全く不明……というわけで、ミッシングリン…

思いついたからって本当にやる奴があるか! - 倉阪鬼一郎『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』

「普通こんなこと思いつかない!」という観点で読者を驚かせてくれる作品は多々ありますが、「思いついたからって本当にやる奴があるか!」*1と呆れ返らせる作品は意外と少ない気がします。本作はそんな「思いついたからやっちゃった」の極北で、閃きが生み…