NOVEL

『銀河英雄伝説(1)(2)』

人に作品を勧める者は、自分も作品を勧められる覚悟を持たねばならない いつだったか、id:sindenの人に「うみねこみたいな長ったらしいゲームを人に勧めまくっているのだから、あなたも銀河英雄伝説を読むべきだ」的なことを言われました。ひとッ言も反論で…

『葉桜の季節に君を想うということ』

さわやなかタイトルの印象から「セカチューみたいなお話なのかな−」という感覚で読みはじめました。まごうことなきセカチューでした。ただし不治の病の代わりにヤクザの抗争とか疑似科学商法とかが出てくるセカチューでしたが。ひ、ひー。 主人公の男性主体…

『アムリタ(下)』

上巻感想 基本的に上巻と同様の感想。今巻ではよりストレートなオカルト要素が増えましたけど、感覚・認識面の特性がいきなりオカルト方面に飛んでいったのではなくて、舞台に上げる描写の対象をそっち側にシフトさせただけかな、と。むしろ、そういうストレ…

『アムリタ(上)』

初吉本さん。少々スピリチュアルっぽい視点から語られる、日常の話。ここで「スピリチュアル」という既存の言葉を使ってしまうのはかなり乱暴かと思うんですけど、他の表現も思いつかないので、あくまで比喩として「スピリチュアルっぽい」という表現をして…

アイちんが頭よすぎてこわい - 入江君人『神さまのいない日曜日II』

大賞受賞デビュー作の続編。受賞作の続編というと「せっかく一巻で綺麗に完結してたのに」……とか文句言われるのがもはや定番ですが、本作でそういう評価はほとんど聞きません。むしろ「受賞作の二巻であるにも関わらず……」的な感想が多いことから、本作の出…

『神曲 地獄篇/煉獄篇』

小説? でははなく詩なわけですが、便宜的にNOVELカテゴリへ。 文語訳とかいくつかあるそうですが、本書は口語調の訳で読みやすうございます。重厚な荘厳さとかが減じてしまうのは仕方ありませんけど、原文がラテン語でなくトスカーナ方言で書かれていた点を…

『アンゲルゼ(3)(4)』

非常に上質な作品でありました。これほどの作品が打ち切られたという事実はちょっと信じがたいのですが、それがカテゴリエラーというものなのかも知れません。残念というか、勿体ないというか。よいものがよいように扱われる世の中であればいいですね。 主人…

『クリスマス・テロル』がなんか普通の小説だった件

(講談社文庫)" title="クリスマス・テロル (講談社文庫)" class="asin"> 地雷中の地雷、壁本中の壁本、みたいな極端に酷い前評判が散々に渦巻いていたせいで、実際に読んでみると酷く大人しい作品だったなあという印象。本編終了後のアレは、別に仕掛けとし…

『アンゲルゼ(1)(2)』

わけわからん運命のせいでわけわからん者どもとの戦いに巻き込まれる、普通だったはずの女の子の話。といっても、本格的なバトルは現段階では発生しておらず、本当の戦い至るまでの準備段階を丁寧に描き続けているのがこの2冊です。 上手すぎるストーリーテ…

外倫理への淡々としたまなざし - コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』

長年探し求めてきたノーストリリア! これが新刊で読めるなんて、ほんまええ時代になったもんです……。 未知なる倫理 本作には、大きく二つの社会が登場します。一方は、英国の君主制を起源としているらしい(ただし肝心な女王はここ1万5000年ほど不在)、長寿…

"開かれた"クローズドサークル - 有栖川有栖『月光ゲーム』

新本格まわりの話題は常時というくらいよく耳にするのですが、実際に読んでる作品はほとんどない、という耳年増状態から脱却するために、まず基本から。 登山してテント貼ってたら火山が爆発して帰れなくなっちゃった、という天然のクローズドサークル。嵐の…

『泰平ヨンの航星日記』

航星日記。といっても、ワープやら波動砲やらといった超科学はあまりなし。人間のアイデンティティを脅かすミもフタもない物理現象、あるいは人類の慣習や倫理観から外れた文脈に存在する異生命たちの社会や生態、等々々。 大地に自生する家具やら、凶暴化し…

ライトノベルの形をした「物語」批判 - 大樹連司『勇者と探偵のゲーム』

「勇者が巨大侵略UFOを撃退すれば、次の日には防衛法が整備される」「探偵が妊婦連続殺人事件を解決すれば、出生率が上昇する」などなど、社会問題を象徴する「物語」を次々と生成しては現実と直結させる「日本問題象徴介入改変装置」。この装置によってライ…

作中善の話とか - 相沢沙呼『午前零時のサンドリヨン』

ぶ、ブギーポップ世代……。 鮎川哲也賞受賞作。わりとストレートなライトノベル文脈の上で描かれた、「手品」をテーマとする日常ミステリ。北村薫さんに米澤穂信さんにしろ、日常系ミステリって殺人事件がおこらない分もっと現実的な意味で重いテーマが取り沙…

童話的終末観 - 北山猛邦『『アリス・ミラー城』殺人事件』

物理の北山! デビュー以来ガチガチの物理トリックを書き続けてきた北山さんが「化けた」とされる本作。なんか凄いアイテムらしい「アリス・ミラー」を手に入れるため、孤島の城に集められた八人の探偵たち。当然のように次々人が死んでいきます。犯人はどい…

真に"残酷"な世界の在り方 - 北村薫『盤上の敵』

この世にどうしようもなく存在してしまう鮮烈な悪意と、それに立ち向かうたったひとつの物語。それは決して、単なる「美談」として肯定的に解釈できる戦いではありません。そうあらざるをえない、という"残酷"を描いた作品です。 本作、作者が前書きとして警…

SF小説の視点のレイヤ、あと物語感覚の加速について - うえお久光『紫色のクオリア』

背景 発売当初から、『紫色のクオリア』が凄い、という話は繰り返し聞いていました。だから、まず傑作なのだろう、とは思っていはいたのです。ただ、「傑作」程度の作品は年に何十作も生まれてくるし、過去を含めると膨大な数に上ります。その全てを読むのは…

支離滅裂な言動と一貫した思考 - 入江君人『神さまのいない日曜日』

富士見ファンタジア新人賞20年の歴史の中で、5回目の大賞に選ばれた作品。小説として"出来がよい"だけでなく、秘められたベクトル*1の在り方が刺激的でした。以下、特徴的に感じたところを二点ほど。 曖昧な世界の境界 死者が起き上がって再び活動をはじめる…

『ブギーポップ・ダークリー 化け猫とめまいのスキャット』

メインキャラクター四人、この中に合成人間と世界の敵がいる! という案配で、わりとフーダニット色の強い作品。 これまでにないほど親切なブギーポップ。ヘルプ対応からアフターサービスまで万全です。あれ? 小学生の女の子を助けるシーンで「丸くなったな…

未知なる倫理への問いかけ - 『エンダーのゲーム』オースン・スコット・カード

基本的には"恐るべき子供たち"的な話。異星からの侵略生物「バガー」に抵抗する人類の最後の希望として、わずか6歳で過酷な軍人育成学校「バトルスクール」に放り込まれた主人公エンダー。特別待遇の自分に対するチームメイトたちの嫌がらせ、学校が自分にだ…

音楽的文体 - 古野まほろ『探偵小説のためのエチュード 水剋火』

陰陽師も百鬼夜行もトラペドヘゾロンも象徴哲学も出てくるけど、やってることはガチガチの本格推理小説という恐るべき作品。同作者の天帝シリーズと比較すると、ページ数が半分以下ということもあって手加減してる感はありますが、手加減してコレというのは…

『冷たい校舎の時は止まる』

メフィスト賞受賞作。超常現象閉鎖空間に隔離された高校生たち、七人のはずなのに八人いる! この前クラスメイトの誰かが自殺してたはずだけど記憶いじられて思い出せない! 自殺したのは誰だ! お前か! みたいな話。いえ実際はそんな攻撃的な内容では全く…

『老人と海』

人間賛歌。であると同時に、人間の尊い努力の跡は、ほとんど誰にも気づかれることなく過ぎ去ってしまうという話でもあるのだと思います。ただし、数は少ないながら彼の戦いを知る人も確かにいて、そういう人の心の中にはしっかりと残されるものがあるのでし…

『マーダーゲーム』

人狼ゲームをモチーフとした推理小説。ゲームルールは大幅に再構成されていて、占い師や狩人といった特殊ジョブがないぶんロジックはシンプル。ただし現実の小学校を舞台にした長期ゲームになっており、各メンバーのアリバイ等が問題になってきたりもするの…

『レクイエム 私立探偵・桐山真紀子』

26人が死亡した幼稚園バス爆破事件、という強烈な要素を中心に据えた作品。一見派手な惹句ではありますが、爆破事件の惨状そのものよりも、事件後の遺族に多くの描写を割いた作品です。 あまり遺族一人一人の内面に踏み込むような描き方はされておらず、探偵…

『スカイ・イクリプス』

『スカイ・クロラ』シリーズ外伝。「キルドレでない人物の視点」をも交えて語られる、外伝ならではの異質な短編集。 と言いつつ、実はあまり異質すぎる感じがしなかったのが面白いところ。本作の不思議な空気感は"永遠の子供"であるキルドレの精神形態による…

『鉄球王エミリー 鉄球姫エミリー第五幕』

友桐夏さん以来、実に数年ぶりに「この人の作品は追いかけよう」と思うことのできたライトノベル新人作家さん。そのデビュー作シリーズの、見事な完結編でありました。 1 ライトノベルの戦記ものはなかなか数が少なくて、たとえ戦争が起きても「メインキャラ…

大甲冑というシステム - 『戦場のエミリー 鉄球姫エミリー第四幕』八薙玉造

重量級ライトノベル 「軽い小説をライトノベルと呼ぶ」という認識の当てはまらない作品が、時々あります。本シリーズはまさにそれ。「重量級ライトノベル」の名にふさわしい作品です。 今巻の大筋としてのシナリオ展開は、大きな意志決定(による行動選択)が…

『円環少女(6) 太陽のくだけるとき』

1 400ページ読むのに8時間かかったライトノベル。*1 初期は読みにくい読みにくい言われてた文体もかなり改善されて、「悪文ゆえに読解が阻害される」ということはほとんどなくなりました。文章密度も、ちょっと濃ゆめではありますがライトノベルの常識範囲。…

『クレィドゥ・ザ・スカイ』

これまでの巻にも増して、茫洋とした感覚に包まれた一冊。主人公は自分が誰だか分かっていないし、現実の中に幻を目撃するし、なによりまともな記憶を持っていません。そして、繊細な筆致と意図された情報制御によって、読者もまた主人公に近い意識状態にシ…