『オーデュボンの祈り』

オーデュボンの祈り (新潮文庫)
私の中のミステリー像にぴったりと一致する作品でした。(といって私がミステリーを正しく理解しているとはぜんぜん思いませんよ?) 傾向としては山口雅也さんのミステリー作品に近いです。ミステリーとしての驚きを読む人の感動に昇華させることに成功していて、ラストシーンへと至る流れはとてもきれいなものでした。気のきいた諧謔が頻出する文体は無理のないとても自然なもので、読んで理解する際の摩擦による減衰がほとんどないように感じられます。
カカシさんがしゃべったり、いまだに鎖国をつづける孤島が舞台だったり、設定自体は非現実的な要素であふれています。でもその設定の枠内でおこる出来事はとても合理的に筋がとおっていて、リアリティがあるのかないのか分からない不思議な半現実感がただよっていました。本土の喧騒から隔離された田舎の孤島がのどかなユートピアではなく、殺人や強盗が日常的に起こる本土と変わりのない俗な世界として描かれていることも新鮮です。人のこころの歪みは親や生い立ちに原因があるのだと説明されていて、京極堂さんが怒り出しそうではありましたが……。