『煙か土か食い物』

煙か土か食い物 (講談社文庫)
これまで舞城さんについては「九十九十九を書いた人」という認識しかなかったんですが、ええ、これでしっかりと個体認識することができました。タナトスだかエロスだかバイオレンスだか、なんだかよく知りませんが、とにかく主人公の一人称はアグレッシヴでハイスピードハイテンション、そのわり心底は妙に倫理的なのが印象的です。そしてこの疾走感は文体だけにとどまらず、お話の骨格までをも侵食しています。
私は文学とそうでないものの違いがさっぱり分かりませんが、最初のうちはたしかに村上龍さんを強く連想させられました。(これは単に、私が村上さんの作品くらいしか舞城さんと少しでも似たところのある作品を読んだことがないというだけのことだと思いますけど) ともかく文圧とか筆致とかと言われている評価は当を得たものなのでしょう。表現力というか圧倒力という意味では、好き嫌いに関係なく優れていると言わざるをえない作品です。それにしても読点を排除したり改行をしなかったり「?」や「!」のあとの一文字空けをしなかったり、舞城さんは行間をつめることにひどく自覚的なんですね。文字を隙間なくしきつめることがスピード感をこれほどダイレクトに演出できるなんてびっくりです。
でもいちばんの驚きは比較的序盤に出てきたあの数学的諧謔です。たしかにそれなりに有名なものではありますけど、それにしたってまさかあのシーンであんなものが出てくるなんて誰が予想できるでしょう? なまじ有名なだけに、そうくるかと唸るしかありません。べリートゥルーリーエレガント。