『世界は密室でできている。』

世界は密室でできている。 (講談社文庫)

ボリボリボリボリ……がやたらとおぞましいです。夢に出ます。

煙か土か食い物』に続いて舞城さんは二冊目。ようやくハイテンションな文体以外のところにも目を向けられるようになってきました。気まずい事態に陥ったら、とりあえず何かギャグをやらないといけないと考える主人公の短絡具合がリアルですね。ルンババ12という名前を始めてみた時はものすごいネーミングセンスだと思ったものですけど、こういう子供たちが名付けたんだと知ると妙に納得してしまいました。ルンババルンババ。読んでる間はすっかり忘れちゃってましたけど、読後に前作の内容を思い出すと何とも言えない気持ちになります。
なるほど愛。これほどストレートな愛もありませんね。愛と、それゆえの憎しみに対する赦しの物語でしょうか。特定の人物間の愛憎の発露が強烈過ぎて、最初の方を一見するといわゆるセカイ系みたいなものなのかと勘違いしちゃいそうにもなりますけど、(私だけかも) 重要な場面で「俺が」ではなく「いろんな人が」という言葉が使われるあたりに決定的な違いがあります。

こんなのミステリーじゃないやいという意見もよく目にしますけど、これはつまりきっとアレですね。『月詠』が萌えをネタにし、小林泰三さんがグロをネタにしているように、舞城さんはミステリーをネタにしてるんだと思います。(「またそれか」と言われそうです) ひと昔前の推理映画のようなコテコテのあっち系殺人事件なんてネタそのものですし、その次のページからもう解決編をはじめちゃうあたりはも笑うしかありません。そもそもミステリーに特に思い入れがない人にとっては「密室」なんてギャグでしかありませんし、「探偵」とか「トリック」なんて言葉は恥ずかしくて日常生活では使えない類の単語です。もちろんこれは舞城さんがミステリーを嘲笑ってるわけでは決してなくて、彼にミステリーへの愛着があってこそできる芸当です。

この人の小説は『次郎物語』みたいなもので、読んだときの年齢や気分によって感想が大きく変わりそうな気がします。それに読んでいる間だけは何となくやる気が湧いてくるような気もするので、ときどき気が向いたときにでもパラパラと再読してみようとか思いました。とりあえず手の届くところにおいておきましょう。