男性向け作品で得られる恋愛耐性

少女向け小説*1に関する話題で、悲喜劇名詞白翁さんの

恋愛話が多く層が厚ければ、内容はより多岐に、複雑に、ディープになる。果たして男性はそうした小説を面白いと思って読むことができるのだろうか?

という言葉*2に対し、
好きなら、言っちゃえ!! 告白しちゃえ!!いちせさんの

なにゅ、美少女ゲームやギャルゲーは、男性向けだけど恋愛話ばっかしだゾ。

という意見*3

数や比率の面で見たとき、女性向けと男性向けの両者にはあんまり差がない気もします。恋愛要素を前面に出さないとしても、主人公とヒロインがペアになっているものは男性向けの作品だって半数を超えるでしょうし、少年漫画やライトノベルだと九割近くになります。男性読者に女性向け作品を受け入れるだけの恋愛耐性があるかという問題になったとき重要なのは、やっぱりその密度や幅だと思います。根も葉もない言い方をするなら、女性の立場から男性向け作品で扱われる恋愛を見たとき、「あの程度は恋愛じゃない」のかもしれません。
例に挙げられた美少女ゲームやギャルゲーといったものは基本的に「主人公とヒロインが仲良くなる」というゴールが大前提として用意されいるわけで、数は多くてもその幅は非常に狭いです。いくら「妹」「幼馴染」「調教」「電波」「猟奇」と色を変えても、最初のレールの部分が同じでは様々とある恋愛ものへの耐性はつきません。そもそも『下級生2』のアレ(リンク先ネタばれ)がお祭り騒ぎになるくらいですから、やっぱり男性向け作品だけを読み慣れている人の恋愛耐性というのはそれほど強くないと思われます。まあさすがにこのお祭は極端な例で、最初に聞いたときは一部のコアなプレイヤーを揶揄したネタかとも思いましたけど、一般の人にもきっと似たようなところはあるでしょう。
恋愛ゲームに限らず、少しでも恋愛要素を含む作品には「主人公とヒロインが(作中に描写がなくとも)最終的に結ばれることが、物語の要請としてお約束的に確定している」*4という世界観がかなり確固としたものとして存在します。もちろん少女漫画なんかも半数以上はこのタイプですけど、男性向けの作品の方がこの信念がずっと強固だと言えるでしょう。そういうものを見て育った人たちの感覚で少女小説のアレな(少なくともそういう印象のある)世界を覗くのは、やっぱりそれなりに覚悟のいる行為である気がします。 (そういう意味では、少女小説を読み慣れているいちせさんは耐性のある人なのでしょう)
とはいえ、女性向け作品からそのディープさが抜けたとしても、男性読者からボーイズラブに対する忌避感が消えるということもないでしょう。たとえば「Key新作のメインヒロインは孤独を抱えた健気な少年」「赤松健が遂にボーイズラブに挑戦! 今度は擬似家族!」「絶望した少年兵同士の愛を鬼才秋山瑞人が描く」なんて言われたら、たとえその作家のファンでも買おうと思う人は少ないでしょう。ボーイズラブという言葉には、感性とか作家性なんかを超越した破壊力があります。少女小説の持つ本質的な敷居の高さとは別に、ボーイズラブという属性的な問題も、やはり男性読者の前に厳然と立ちはだかる壁だという気がします。

*1:「少女向け」「女性向け」「男性向け」あたりの言葉はかなりアバウトな意味で使ってます。変に詳しく定義してもややこしくなるだけなので、今回はこのままで。

*2:http://cereza.ddo.jp/archer/diary/?date=20050829

*3:http://www2e.biglobe.ne.jp/~ichise/TODAY/2005_08.HTM#d29_2

*4:最後にヒロイン死んじゃったけど心はちゃんと通じ合ってたよ、みたいなのも含めて。