『星を継ぐもの』ジェイムズ・P・ホーガン

星を継ぐもの (創元SF文庫)
ちょっとずつ古典SFにも手を伸ばそうと思い、まずはよく耳にするこのあたりから。予想以上の当たり。これ一作で満足するのは勿体ないので、周辺の作品も読んでみようという気になりました。SF的な評価に混じってミステリーとして言及してる人もいましたけど、最後まで読むとたしかにミステリーそのものですね。
お話の筋は、月で変なものが見つかったので現代科学の粋を集めて皆でこの謎を解き明かしましょうというもの。エイリアンが攻めてきたり、太陽が爆発したりという派手な出来事は何もありません。発見された謎の解明だけがこのお話の目的で、種明かしが終わったらそれでお終い。チテキコウキシン万歳の、とてもストイックな構成です。原子物理や宇宙物理、生物学から言語学まで、さまざまな分野が縦横に結びついていく展開は、そのアカデミックな雰囲気についつい憧れを抱いてしまうほど。進路に迷う高校生なんかがこの本を読めば、それこそ人生を変えかねない影響を受けちゃうかもしれません。
そういえば本書は、専門的な視点から見るとアラもかなり多いらしいですね。いつかの日記で書かれていたと思うんですけど、森博嗣さんはこの作品にそれほど感銘を受けなかったそうです。彼はそれこそアカデミックな世界の生粋の住人ですけど、本場の人間に訴えかけるような力は本書にはあまりないのかもしれません。そういう意味では、本書は専門的な教養のない一般人でも科学(っぽい)空気に触れることの出来る作品ー、ということになるのでしょうか。