『禅銃』バリントン・J・ベイリー
褌ではなく。
古典SFのつもりで手にとってみましたけど、よく確認したら80年代の出版なんですね。このくらいの古さではまだ古典とは言わないのでしょうか。
この作品も、SFというジャンルのとある一面のひとつの極地なのかなと思います。とにかく発想が奇抜で、しかも大量。ひとつひとつのアイデアはそれほど練り込まれているわけではないかもしれませんけれど、ページを捲るたびに現れては消えていく奇想の洪水を前にした読者にとって、些細なことを気にしている余裕はとてもありません。目の前の出来事を正しく認識するよりも先に、更なる荒唐無稽な現象が無遠慮に割って入ってくるのです。そしてそのアイデア自体も、冗談なのか本気なのか判断の微妙なネタばかり。人間サイズの喋る象とか。「これがセンス・オブ・ワンダーの真髄だ」とか言われれば納得してしまいますし、逆に「稀代のバカSFだよ」と紹介されればそういうものとしても読めてしまいます。
ところで禅銃と聞けば、『サガフロンティア』に登場する銃*1を思い浮かべるコアな人がいると思います。サガシリーズにはときどき昔のSF作品からの引用が見られるので、これもそのひとつなのでしょう。また本書の人間や動物がほぼ対等の存在として世界を闊歩する様からは、『サガフロンティア』の種族入り乱れたリージョンの雑多な世界観を連想せずにはいられません。河津神さまの頭の中に思い描かれている混沌とした世界は、きっとこのあたりのSF作品が基盤になっているのだと思います。