『ナイフ』

ナイフ (新潮文庫)
初マツキヨ。読んでて「ぐへーっ」てなりました。ダメージはジャック・ケッチャムさんの『隣の家の少女』ほどではないにしろ、同じ方向性を持つ作品だと思います。ケッチャムさんと違って人間の悪を糾弾することに終始するわけではなく、そこに生まれる心理や救いにまで目を向けているので、読後感は決して悪いばかりではないんですけどね。
小学生や高校生ならともかく、三十代四十代のおじさんにまですんなり感情移入できてしまう心理描写の丁寧さはすごいと思います。同じ境遇の人に「自分の気持ちを代弁している」と感じさせるものと、ぜんぜん違う境遇の人に「こういうものなのか」と納得させ共感させるもの、心理描写にそんな二つの方向性があるとすれば、重松さんは後者に特化している気がします。
そういえば、最初の四作が最後の一作に対して軽いミスリードになっているのが面白いですね。作者や編集さんがそこまで狙ってたのかどうか分かりませんけど、ちょっと騙されてしまいました。