『脳髄工場』

脳髄工場 (角川ホラー文庫)
角川ホラーからの久々の新刊。いつも通りぐろんちょSFな小林節に加え、彼にしては珍しい数篇のショートショートも読めたことが新鮮でした。「コオ!」に代表される変な日本語もやはり健在。ウルトラマンの次は魔法少女ものとか書けばいいと思いました。飛び散る美少女の細胞組織とか脳漿とか。えらいことです。

今回は主体や理屈の逆転ネタがほぼどの作品でも統一されて出てきたんですけど、なかでも小林さんに特徴的なのは倫理観のそれですね。たとえば人口物に心を感じることや、生命の機械化、自由意志を奉じることの是非など。

こういう二項対立が出てくると読者は「作者的にはこっちの方の主張を正しいものとして用意したんだろうな」とアタリをつけて後で酷い目に遭うわけですけど、それ自体が小林さんのミスリードである気がします。本職として工学の現場に携わっている小林さんにとって、こういった葛藤は「世論がどう動くか」とか個人的見解を超えたレベルから考えないといけない問題でしょうから、どちらかを肯定して終われるような単純な話でもないのでしょう。

そういえば『影の国』は別のアンソロジーにも収録されてるんですけど、『世にも奇妙な物語』でドラマ化されたのが印象深かったり何だったりで今まで何回か読み返しています。それなのに、今回あらためて再読してみると後半の記憶がぜんぜん残っていなかったので驚きました。自分の不自然な記憶の欠落がお話の内容にうまくはまっていて不気味不気味。とてもいやーな気分になりました。