『SHI-NO -シノ- 黒き魂の少女』

SHINO ―シノ― 黒き魂の少女 (富士見ミステリー文庫)
あー。ああー。よく見かける「某氏*1っぽい」*2という世評、たしかに納得がいきます。というか、正直いちばん強く感じた印象がそれだったっていう。小説一冊読んでその程度の読み取りしかできてないというのはかなり恥ずかしいことなんですけど、あまりにも目立つところに配置されていて思わず注意がそっちの方に行ってしまいました。超反省。
とはいえ、この作品が例の某氏の強い影響下にあることはやはりどう見ても明らかです。劣化とかデッドコピーとか言い出して話を打ち切ったりでもしない限り、本書の内容を某氏と絡めて考えるのは無駄ではないと思います。まず目を引くのは、いわゆる「寝言ポエム」と「死んでる状態が自然。生きてる方が不自然」という主張と、あとはいくつかの特徴的な言い回し*3。これらの要素は見た目が思いっきりそのまんまな上に比較的序盤に登場するので、この時点で「ああ、***だ」と思ってしまうのは仕方ないかもしれません。

もちろん本書がそんな内容に終始するわけではなく、たとえば終盤に語られるフェイルセイフの発想は上月さん独自の考えとして十分に新鮮なんですけど、最初の印象が全編に尾を引っ張ってる気はしました。まだ書いてる人が影響を自身のものとして完全に消化しきれず、切り取ったものを思うままに並び替えてる段階というか。この辺、もうちょっとこなれて来ることを期待します。
えーっと、あとお話。物語的にはあんまり大した事件も起きず、*4シノちゃんのキャラ(というか思想)紹介に終止している感じ。エンタテインメント的には実に大人しい作りです。もちろんツンデレなんてものから遠く離れた真性ダウナーなので、そっち期待するのもやめたがよいです。「死>生」的価値観に抵抗が少なければ比較的摩擦なく読めるかと思います。

*1:ぶっちゃけ森博嗣さん。

*2:ついでにお話の題材が『低俗霊DAYDREAM』と被ってますけど、まあこれはたぶん偶然でしょう。

*3:「エネルギィ」とかあからさまに象徴的ですけど。

*4:いえ、本当はそれなりに大事が起こってるはずなんですけど、あんまりたいしたことはないように思えてしまうのは何故でしょう?