『蟲と眼球とチョコレートパフェ』

蟲と眼球とチョコレートパフェ (MF文庫J)
はい、すごうく面白かったです。日日日さんにはいつか一皮むけてほしいなあ、とは思っていましたけど、まさかそれがこんなに早く来るなんて。構成がまずいことと、お話の畳み方が苦手なことと、主張が妙に偏見深いところ、日日日さんの大きな弱点はその三つだったと思いますけれど、今回は見事に克服できていたように思います。途中で中だるみすることもなく、ラストも綺麗にまとまっていました。デビュー当時は鼻につきまくった呪詛的な主張も、近頃はほとんど目につきませんし、この作品だけを見るならもうすっかり一人前です。
そういった減点法的な評価は置いておくとしても、「異能者たちの抱く哀しみ」につていの描写が普通に上手いです。これについては前巻の時点でもなかなか成功してましたけど、まさか日日日さんの作品で目を潤ませることになるとは思いもよりませんでした。人目を気にする必要のない環境で読んでいたなら、本当に泣いてたかもしれませんっていうくらい。いわゆる現代学園異能と違って心理描写のメインとなるのは「完全にあっち側に行ってしまった人々」ですけれど、そんな彼らがもう一度こっちの世界を振り返ったときに見せる視線がなんとも痛切。中盤でグリコちゃんが現れる場面とか、ラストの固定霧のくだりとか、ものすごくベタではあるんですけど相当キます。主観的には傑作の出来でした。
前巻に引き続き、女の子がグロい目に合うシーンも満載。でも日日日さんの描くグロシーンって、あんまり生々しくない綺麗なグロですよね。成人向け漫画やゲームの18禁シーンなんかには、現実の人間の肉感や湿度を感じさせないよう理想化して描写されたものが結構あることと思いますけれど、日日日はそのグロバージョン。ぶち撒けられた肉がー骨がーといくら描いても、それはあくまで記号的に捉えざるを得ないもので、小林泰三さんの黄色い汁がリアルに想像できるような描写とはまた違った方向性のものなのだと思います。別にそれが一概に悪いわけでもなく、レーベルと読者層のことを考えるとこのくらいが丁度いいのかなーとか思いました。