ネオエクスデス化する元ネタとしての神話的データベース (3)

えーと、著作権意識の高い現代では神話は非常に生まれにくい、という話でしたっけ。で、それでもむりやり神話っぽいものを作りたいなら、著作権を放棄するなり転載を自由にするなりして多次創作を許可しておき、絶対基準となる「原作」は存在しないと宣言しておけば上手くいくかもしれませんよーと。というわけで、以上のことを踏まえて実際に神話的データベースを作ることが出来るかどうかを考えてみます。

簡単なことのように言ってしまいましたけど、既存の商業作品を神話化するのはもちろん困難です。なにせあちらには著作権という固い壁があるわけで、それによって保護された「原作」も非常に強固です。多次創作を前提とする神話にはどうしても不適でしょう。

反対に、ネット上で無料公開されてるような個人管理の作品はその限りじゃありません。自分の作品が二次創作に晒されて元型をとどめず変容してしまうことに抵抗がなく、後々その作品を売り物として世に出そうとも思っていない。そんな作者さんにとっては、自分の作品について先に挙げた神話としての条件を宣言するのもそんなに無茶なことではないはずです。

とはいえ、ネットの片隅で公開されたある物語に神話的な性質が付与されたからといって、それが本当の神話のように世の中に広まっていくとは考え難いです。どこかの同人ゲームみたいによっぽどな面白さがあれば別ですけれど、そんな作品を狙って作ることができれば苦労はしません。

そうやって生まれた神話的物語でも、参加者が飽きるまでは細々とした形で続いていくことになるでしょう。けれど、ごく狭い仲間内でしか通用しない元ネタは、神話的データベースではなくただの内輪ネタとして終わってしまいます。神話を名乗るからにはせめてバーチャルボーイくらいの知名度は獲得しておきたいものですけれど、さっそく行き詰まってしまいました。

行き詰まったので、タイトルが嘘にならないようネオエクスデス化の話に立ち返りましょう。実在の神話を例に考えてみれば分かりますけど、作品同士の間に明確な垣根が存在しないのも神話的作品の特徴でした。大昔の詩人は、他人の語った複数のばらばらなエピソードを統合していくことで、ひとつの大きな世界観を作り上げてきたわけです。

現代では一シリーズ一世界観、せいぜいでも一作家一世界観という認識が当たり前のものとなっていますけれど、それが必ずしも普遍的な考えであるとは限りません。昔は、ほんの数百年前までは、二次創作なんてやりたい放題だったのです。世界観が作者ごとに断絶している現在の状況こそが特殊な状態だと考えるのは、別に突飛なことじゃないでしょう。

id:REVさんのところにこういう話が挙がってましたけど、要はそれに近い発想です。それも、二つ三つの作品群の世界観を繋げるという内輪レベルのものではなく、たとえばWeb全体で共有するスタンダードな世界観としての神話的データベースを想定してみるのはどうかなー、という提案です。

これまで述べてきたとおり、神話的データベースは確固としたひとつの実体を持つものではなくて、大勢の人々の共通項的イメージの集積です。個々の作家はそこから自分の作品に取り入れたい要素だけを取捨選択して(または歪めて)好きなように引用することがでますし、そうして生まれた新しい物語は人々の漠然とした印象としてデータベースに再びフィードバックされます。あとはその繰り返しです。

とりあえず、何か新しく作品を作ろうとする人は*1それが神話的であることを宣言しましょう。別に作品全体ではなくて、「作中の伝説部分のみを神話的に扱う」みたいな宣言の仕方でも構いません。同じように神話的であることを謳う作品を見つけたら、作中で適当に関連付けてみるといいでしょう。

最終的にフィードバックされるのはディテールではなくイメージなので、あまり整合性に留意する必要はないと思います。サガフロのリージョンみたいな考え方もありますし、現代とファンタジーのように作品をぜんぜん別な世界として設定したって、そんなに問題はない気がします。そのうち誰かが適当な設定をつけて、ネオエクスデス的に上手いこと繋がっていくんじゃないでしょうか。

最初は個々にバラバラなお話であっても、いろんな人がどんどんこねくり回していけば、そのうち漠然とした共通イメージが浮かび上がってくると思います。その過程で、より魅力的な逸話は広く浸透していくでしょうし、逆にそれほど人心を掴まないネタは零れ落ち、ある程度の最適化が自然と行われるでしょう。まあその前にしっちゃかめっちゃかになって頓挫しちゃうかもしれませんけど。それにどっちにしろ、興味持って能動的に動く人の絶対数が少なかったらどうにもなりません。

とにかく、神話化という考え方さえ浸透すれば後はなるようになるんじゃないかなー、という楽観的な提案でした。多分に感覚的に都合よく考えてる部分があると思いますけど、誰か偉い人、この件について検討とかしてみませんか。「神話型コンテンツ」みたいな名前で。(パクリ)

*1:別に既存のものでもいいですけど。