『さよなら妖精』
「哲学的意味がありますか?」というオビの惹句を見たときは「ああ、今回はそういうヒロインなのか」と思ってしまいましたけど、ものの見事に裏切られました。思春期にありがちでいかにも観念的なアレを連想させるこの台詞が、まさかここまで地に足の着いた動機から発せられたものだったとは。
もちろん、主人公やその友人たちといった地に足の着いていない人々を描いた物語でもあるんですけれど、彼らの自意識はよくあるライトノベル的文脈によって保護されることはありません。むしろ現実の社会の前に彼らの自意識は完膚なきまでに叩き潰されてしまうのです。セカイ系キャラクターをセカイ補正の一切通じない現実世界に放り込んだ感じというか。観念的な世界に生きる彼らにむりやり身体性を叩き込むという、その試みを成功させただけでも本作は傑作たりえると思います。
推理部分はいつも通り。お話を通しての謎はなかなか手応えがありますけれど、途中に挿入される小ネタは超能力なり探偵力なりがなくては解けるものじゃないと思います。解答が一意的に定まらない上にそこに至るまでの道筋も飛躍が激しく、普通の人には手の届かないものになってしまっています。「日常の謎」としてアピールするにはこの点がちょっと弱味になってるような気が。まあ謎の真相自体は面白いですし、そろそろこれはこれで米澤さんの芸風なのかなーと思い始めました。