コキューネーもハルシャニア「ゆらぎの神話」のキュトスの姉妹です。応募要項満たしてたかどうかがそもそも微妙っていう。
「2/72」 砂浜で大股の四つんばいになり、海中に頭を突っ込んでいる女がいた。身体を小刻みに震わせながら、もうかなり長いことそうしている。人間なら酸素欠乏でとうに死んでいるだろう。 「ねえハルシャニア、いつまでそうしてるのよう」 その奇景を眺めていた小さな娘が、辛抱しきれぬように声をかけた。 ざぶん。 海水から頭を抜き取り、長い髪の張り付いた女の顔が現れる。七十一姉妹の四十二番目、海喰らいハルシャニア。姉妹中屈指のクールビューティーだか何だかで名高い彼女は、切れ長の目でその小さな姉を睨めつけた。 「邪魔しないでくれる、コキューネ姉さん」 「海水なんて、塩っ辛いだけだよお」 コキューネは怯えながらも妹を諭した。ハルシャニアは狂っている。自分の中の【海】を大きくすること、妹はその考えに取り憑かれているのだ。海水を呑み続けることで【海】になれるという確信。そんな屁理屈、魔術的根拠はどこにもないのに。 「そんなことより、お弁当食べようよお」 コキューネは手作りの弁当をちろちろ振った。まともな食事をしていない妹を心配したのだ。 「紀納豆は」 「え? ごめん。だって私、納豆食べられないから」 「じゃあいらない」 「えええ……」 ざぶん。 ハルシャニアは再び海に頭を突っんでしまった。海水を飲み下すごきゅごきゅという音が、コキューネの耳まで聞こえてきそうだ。 「そんなことしてると、変な子だって避けられちゃうよ……」 ざぶん。 「他人のことばかり言わないでよ。いちばん人に避けられてるのは姉さんの方でしょ。コキューネの脳髄洗い。断罪の悪魔コキューネ。人の脳みそに指を突っ込んで趣味も性格も変えてしまう姉さんは、私から見たって恐ろしいわ」 ざぶん。 「……そんなあ」 コキューネはべそをかき出した。指で目をこすりながら、ぐずりぐずりと鼻を鳴らす。 ざぶん。 「ごめん」 「うわああんハルシャニアのあほー」 「ごめんって」 ハルシャニアのその日の午後は、【海】の代わりに姉のご機嫌取りに費やされた。