『永遠の戦士エルリック(1) メルニボネの皇子』

メルニボネの皇子―永遠の戦士エルリック〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)
アリオッホ! アリオッホ! アリオッホ!
おもしょー。主人公エルリックさんの造型が凄いです。生命維持魔法の助けがなくては満足に身体を動かすこともできない虚弱体質、にも関わらず魔法によるドーピングで肉体を無理矢理強化し、さらには呪われた魔剣ストームブリンガーの作用によって戦力的には最強の戦士となったエルリックさん。

普段は内省的でアイデンティティクライシスに悩まされているくせに、肝心なシーンでは妙に能天気な判断を下して墓穴を掘りまくる、といううっかりさんな性格とも相まって印象は非常にアンバランス。さすが法と混沌の間を彷徨う存在なだけはあります。単に根暗なアンチヒーローなら幾らでもいますけど、ここまで安定を欠いた造型のヒーロー像は他の例を知りません。

お話の方も、さすが名作といった出来。特に一話目の『メルニボネの皇子』は展開や舞台が次々とひっくり返っていき、作品世界へ読者を引き込む牽引力が抜群。ていうか多元宇宙の並行世界に広がる巨大な物語の中の一挿話、という風に聞かされてしまっては、それが面白くないはずありません。『ルーンの杖秘録』も新装されてるみたいなので、この調子でエルリック・サーガ以外のシリーズも文庫化よろしくお願いします。