『独裁者の城塞 新しい太陽の書(4)』

独裁者の城塞 (ハヤカワ文庫SF―新しい太陽の書)
うわあ……ようやります。頑張ってここまで読んだ甲斐のあった第四巻。ここまでずっとお話が動きそうでなかなか動かず、どうなるのかなーどうなるのかなーと思っていたらなんとこうなりますか。完全に予想外。この「共和国」の政治システムって、ちょっとコレに似てますね。(微妙にネタばれかもしれないので注意)

とにかく全編に大量の伏線が張り巡らされていたわけですけれど、その配置の仕方が印象的。伏線というのは忘れられてしまっては意味のないものですから、強調した描き方をすることで「これが後から関わってくる伏線なのだな」と読者に伝えるのが普通です。これが上手い人になると、伏線だと意識させないごく自然な描写をしつつも読者の頭にはっきりと記憶を植え付け、その伏線が開示される段になってやっと「ああ、あそこで何となく印象的だった記述はこういう伏線だったのか」と気付かせる形になります。

ところがこの『新しい太陽の書』シリーズでは、上のどちらとも異なるタイプの伏線が強い力を発揮していました。なにせひとつひとつの記述がいちいち印象的すぎて、普通の小説なら伏線を印象付けるために用いるような凝った表現が素の文章としてガンガン出てくるのです。こうやってあまりに大量で印象的なイメージで揉みくちゃにされてしまうと、読者は「これとこれが伏線だな」なんて考えている余裕がなくなります。木を森に隠すのと同じ理屈。結果としては、「伏線だと意識させないごく自然な描写」をしたときと同じとも言える効果が得られるわけですね。すごいパワー。

なにはともあれ、死ぬまでにもう一回くらいは再読したい作品。正直、私には荷が勝ちすぎた難度かなという気もしていたので、読書スキルとSFスキルを磨いてからまた挑戦したいと思います。