『蟲と眼球と愛の歌』

蟲と眼球と愛の歌 (MF文庫J)
よーしよしよし。大きな弱点だった話運びもだんだんと改善されてきて、上手くはなくとも目に余るほどではありません。とりあえず作品として最低限の質は保ったまま、日日日さん自身の良いところも勿論ちゃんと表現できています。どうやら次が最終巻ということで、日日日さんのシリーズものでは初の完結となりそうな予感。何とかこの調子で、うまいこと纏めてください。

お話はクライマックスに向けてわりと一直線。この作品は主要な登場人物がかなり多いんですけれど、今回はそれぞれの動きがかなり上手く収束したと思います。たつゑさんや貴御門さんの登場シーンがなかったのは残念ですけど、これだけの人数*1をオールスターで登場させちゃうのはさすがに無茶なので、ある程度人数を絞ってシェイプアップを図ったのは正解だと思います。無理して今回に見せ場を作らなくても、次巻の完結編があるわけですしね。

前作前々作に続いて、異能者の哀しみはよく表現できています。それぞれのキャラクターが世の中から疎外された哀しみを抱きながら生きているわけですけれど、自分たちを疎外する側である「世の中」に対して誰も悪意を向けていない*2のが素敵です。捻くれ者の日日日さんっぽくなくて、逆に真の意味で日日日さんっぽいというか。

梅ちゃんの存在はストーリー的にはあまり本筋に関わっていなくて*3蛇足気味ですらあるんですけど、しっかりした描写と存在感があるおかげで決して無駄だとは思えません。あと変態刑事クルキヨさんの挿絵が美形すぎ。これは反則だと思います。ずるい。

例によって血がどばどば溢れて人が死にまくります。この作品の異能者は力は超人的で蘇生能力も高いけれど肉体の強度自体は人並み程度のようなので、メインキャラが次々とぐちゃぐちゃになっていくのはまあ構いません。でもちょっと気になるのは、一般人の死に対する扱いが軽すぎやしないかなーということ。

今回も異能者同士のバトルに巻き込まれる形でおそらく三桁台以上の一般人がアレされちゃうわけですけれど、そういうシーンを出す以上はもう少ししっかり描写しておかないと「派手に見せるために安易な人死に頼った」だけのように見えてしまいます。まあ日日日さん自身の趣味でやってるという面がいちばん大きいんでしょうけれど、そういった鬼畜趣味な部分だけが少し浮いて見えがちなので、もう少しうまくやってもらいたいと思います。

*1:登場人物表では13人。

*2:まあ、「手段」として一般人を殺しまくったりはしてるんですけど。

*3:現時点で。