フリーシェアワールドの提案

以前神話型コンテンツの話をしましたけど、もっと分かりやすい言い方はないかなーと思って「フリーシェアワールド」というのを考えました。

シェアワールド」(シェアードワールド)というのは「共通の世界観、登場人物などを用いて複数の作家が作品を書くこと」です。最近だと秋山瑞人さんと古橋秀之さんがはじめた『龍盤七朝】とか。

この「シェアワールド」の頭に「フリー」を付けるわけですけど、ここでの「フリー」はフリーソフトとかフリー素材とかに使われる意味での「フリー」です。単に「シェアワールド」と言った場合、原則としてその世界観(ワールド)は特定の個人・集団の間で共有(シェア)されます。

たとえば先の『龍盤七朝』の例だと、この世界観が共有されるのは秋山さんと古橋さんの間だけです。ここで名前も知られていないような他社の新人作家が勝手にこの世界観を用いた作品を出版したら、メディアワークスに訴訟を起こされるかもしれません。でも「フリーシェアワールド」の場合、そこの権利関係が「フリー」になるわけです。

自分の作った作品の権利を丸投げしてしまうような真似は誰でもできることではありませんから、この「フリー」には段階を付けた方がいいでしょう。世界観だけを「フリー」とする。世界観もシナリオも「フリー」とする。本文まで含めて完全に「フリー」とし、無断転載まで許可してしまう、など。「フリーシェアワールド」の利点は色々とあって、その辺は神話型コンテンツのときにも書きましたけど、ぱっと思いつく限りでは次のようなのが考えられます。

  • 複数人によって複数の場所で語られている内に、その世界観自体が進化・変容する
    (実在の神話や都市伝説が作られる過程と同じです。作者や読者のネットワークによって、作品に偶発的な変化の可能性を与えることができます。自分が軽い気持ちで作った設定が他人の手でいつの間にかこんなに膨らんでいた! みたいなことがあると楽しいです)
  • 「フリーシェアワールド」でさえあれば、世界中のあらゆる作品はひとつの世界観に統合することができる
    (一見まったく異なる系の世界観も、あの手この手で無理矢理くっつけることが可能です。別の時代だったとか並行世界だったとか)
  • 創作をはじめる際、世界観や登場人物を一から考える必要がない
    (こういう言い方をすると根も葉もありませんけど、世界観自体がフリー素材であると考えればよいのです)
  • 既に読者の間で認知されているイメージを利用することができる
    (たとえば吸血鬼なんかにはいちいち説明しなくともおおまかな共有知識があるので、そういったイメージを利用できます。また「増血鬼」のように共有イメージの裏をかいてオリジナリティを表現することもできます。あとSF西遊記みたいな拡大解釈とか。「フリーシェアワールド」の場合も同じことです)
  • 量的に、個人には不可能な広大な世界観を作り上げることができる
    (こういうのとか、とても一人の人間では不可能です)
  • 原作と二次創作の垣根がない
    (二次創作のつもりで書いた作品も、書いた瞬間から原作に取り込まれます)

こんなとこでしょうか。創作者が二次創作をおおっぴらに認めないのは著作権とか法律とかその辺の整理や線引きがめちゃくちゃ面倒だからというのが大きくて、心情的にはむしろ二次創作を奨励したいか、少なくとも気にしないという人は結構いることと思います。金銭的なことを考えなくてよい個人公開レベルの作品なら、そういった問題を扱うのはより容易になるでしょう。もし「フリーシェアワールド」という考え方が一般化していたなら、自分の作品の世界観を公開してもよいと考える人は相当数いるのではと考えます。

というわけで、これから作品を作る人、これまでに作品を作ったことがある人は、その作品をフリーシェアワールドにしてみませんかーという提案です。

やり方は簡単。作品の公開にあたって「この作品(の世界観)はフリーシェアワールドです」と宣言しておくだけ。「この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などにはいっさい関係ありません」なんかと同じノリで。ゲームならreadmeファイルとかに書いておけばいいですし、テキストなら文頭か文末にでも。面倒なら【FSW】というマークでその代わりにするとか決めておくといいかもしれませんーと。

じゃあ私は言いたいこと言ったので、皆でフリーシェアワールドを広めればいいと思います。あとゆらぎの神話もどうぞよろしく。