『重力ピエロ』の倫理観は苛烈だなあと

重力ピエロ (新潮文庫)
ものすっごく面白くて、これでもまだ直木賞には届かないのかーと驚くことしきり。とにかくリーダビリティの高さが異常で、文庫五百ページをすらすらすらと読めてしまいました。一般に文体の軽いと言われるライトノベルでも、なかなかこうはいきません。

単に文章が読み易いだけではなく、先の展開へと読者を引っ張る牽引力も伴っていなければ、これほどのリーダビリティは生じないでしょう。中身も非常によくできた家族もので、「傑作」と呼ぶことにも抵抗を感じません。

でも、たまに「伊坂幸太郎は生理的に好かねー」という人がいるのも、それはそれで判る気がします。気取ったような会話が鼻につく、というのもその理由のひとつなんでしょうけれど、気になったのは伊坂さんの強烈な倫理観です。

伊坂さんがレイプ犯罪に対して強い嫌悪を抱いていることは、彼の数々の作品から容易に読み取れます。私は場合によってはレイプ犯に殺人と同等の死刑を適応して良いとかわりと本気で思ってるクチなので伊坂さんの感覚には共感してるくらいなんですけれど、それにしてもここまで微塵の躊躇もなくそのことを主張できるものなかと驚いたりもします。この件に触れるときの伊坂さんの姿勢にあまりにも迷いがなさすぎて、そこには少し引いたりもしてしまいました。

まあ書いてる伊坂さん自身がそういった断定的な倫理観を持つことの危うさを認識していないとも思えないので、そこは分かってて敢えてああいった書き方をしているのでしょう。分かっててなおあそこまではっきり書いてしまえるというのも、なかなか凄いことだと思います。伊坂さん強い。