『シンフォニック=レイン』についてちゃんと感想
私が市販のサウンドノベルをプレイしたのはこれが三度目で、残りの二つは『A I R』と『かまいたちの夜』のみです。というわけで例によってこの手の作品のアベレージを知らずに話をするので、この記事はそういうものだと思ってください。ひとつのルートに要する時間はだいたい六時間かそこら。既読スキップを用いれば、二周目以降はさらに早く進められることかと思います。ボリュームとしては、お休みの日に一気にプレイしてしまうには手ごろな分量でした。
まずこの作品、「ミュージックアドベンチャー」ということでキーボードを使った演奏パートが存在します。なんか『ビートマニア』っぽいの。まあこれは苦手な人のために自動演奏モードも存在するし、基本的には作品世界を引き立てるためのものでゲームの中核ではありません。
ストーリー中では卒業演奏の練習(と本番)としてこの音楽モードが挿入されるんですけれど、各ルートごとに発表曲は固定されています。必然、何度も同じ曲を演奏することになりますけれど、発表を前にして毎日練習にいそしむ主人公の気持ちに共感するための助けにはなっているかもしれません。まあ、その学生生活自体がストーリーの核ではないので、貢献のほどは微妙ですけれど。
とはいえ、岡崎律子さんの遺作とされるそれぞれの曲の歌詞は実に示唆に富んでいて、その意味では作品にこの上なく貢献しています。本編中ではなかなか本当のことを話してくれないヒロイン勢ですけれど、彼女たちが思いを込めた歌詞だけはどれもやたらと正直で、ちょっとダイレクトすぎやしないかと心配になってしまうくらいです。惜しむらくは、演奏が大変でプレイ中は歌詞に集中できないことなんですけれど。
音を前面に出すという意味では、舞台の街に一年中降り続くという「雨の音」がまたよい効果を発揮しています。徹底して暗色系が用いられた視覚デザインとも相まって、物語の陰鬱な雰囲気をテキスト以上に正確に伝えてくれています。あと録音状況の問題か私の環境が悪いのかキャラクターの台詞にずっとノイズが入ってたんですけれど、雨の音のおかげであまり気にしなくて済むという効果もありました。(えー)
シナリオとしては、終盤まで特に何事もない日常が続きます。読者の興味を惹くような事件や目的*1がなかなか発生しない*2ため、序盤・中盤の物語の牽引力は低いと言わざるを得ません。特に面白みのある「読ませる」テキストというわけでもありませんし、ぶっちゃけ退屈と感じる人が多いでしょう。
まあそれも、伏線を張るための準備期間だと思えば安いものです。いずれかのルートを終盤まで読み進めれば、この退屈は景気よくぶち壊されます。その後は興味が持続して他編もどんどこ進められるようになるでしょう。「物語」としてはあまりにもそのまんまというか、身も蓋もないルートが多いんですけれど、その背景にあるキャラクターの心の「情景」は強烈な表現能をもって非常に緻密に構成されています。全てがそこにつぎ込まれている、と言ってもいいです。とにかく、プレイヤーの感情を色々あらぬ方向に励起させることにかけて、本作は絶品です。
強い感情というのは、往々にして別の強い感情と混ざってごちゃごちゃになってしまいがちです。そういう意味で、本作をプレイするのはある程度心の落ち着いているときを推奨しておきましょう。試験結果発表の数日前だとか、人間関係に悩んでいるだとか、就職が決まってないだとか、そんな沈んだ心理状態ではゆめゆめプレイなさらぬように。まあ複合効果でいまだ見ぬ感情メーター振り切れの境地に至れるかもしれませんけれど、その後のことは保障しません。
と、本当にどうしようもないくらい普通の感想を書いているだけで結構な文字数になってしまいました。「物語」と「情景」についてはもう少し突っ込んだことをぐだぐだ書きたいんですけれど、その辺はまた後日。