『ZOO 1』が積読の山の底から出てきました

ZOO 1 (集英社文庫)
いわゆる「白乙一」とも「黒乙一」ともカテゴライズできない、不思議な作品集でした。

「カザリとヨーコ」

母からの愛情を一身に受け学校でも人気者な双子の姉カザリと、母からの虐めを受け学校でも除け者の妹ヨーコ。乙一さんお得意の、日陰者の哀しみを綴った作品です。身の周りの全てのことが自分にとって悪い方向にしか向かわない、その日常の辛いこと辛いこと。

「SEVEN ROOMS」

ある日突然誘拐され、見知らぬ部屋に閉じ込められた姉と弟。迫る恐怖に怯えながらも、脱出のため部屋の奇妙なルールを探っていくというお話。舞台設定が非現実的なのでどうにも実感に乏しいんですけれど、それにも増して姉弟の絆が壮絶。

「SO-far そ・ふぁー」

取り返せないぃー、過ちがぁー。なお話なようでいて、実はそうではないかもしれず。不思議な読後感。

「陽だまりの詩」

ロボットが人間の心を理解していくお話。よいお話ですけれど、ロボットの感情描写にちょっと違和感。ロボットと言いつつ、その思考が人間と変わりありません。これなら別にロボットじゃなくて、「最初は感情の欠落した人間」とかの方がよかったのではという気がします。

「ZOO」

叙述トリックです。と宣言してもネタばれにならない珍しい形式の作品。地の分で読者を騙すのが本来の叙述トリックの手法ですけど、この作品はなんと「叙述トリックのネタばれ」を地の文自らがリアルタイムで行っていくのです。デビュー以来幾度となく叙述トリックを扱ってきた乙一さんが辿り着いた、ある意味新境地。