フリーゲームにも傑作はあるのです - 叙情SF短編ノベルゲーム『きせきの扉』

きせきの扉

フリーゲーム中心の同人サークル「アンディー・メンテ」から、プレイ時間十数分程度の無料短編ノベルゲーム『きせきの扉』を紹介します。人によっては傑作となる作品です。

すき・すき・すき・すき・すき・すきっていうノベルゲーム

(DLページ紹介文)

 ねぇさびしいよ アンディー・メンテ

(readme末文)

アンディー・メンテのゲームは不思議です。あえて整形されないデザイン、意図的に放置される誤字脱字。ひと目で「素人の手製」という印象を与えるゲーム画面は、けれどどこか人を惹きつける原初的な魅力があります。それはときに私たちが幼児の描いた稚拙な絵に言い知れぬ畏怖を抱いてしまうのと、似たような原理なのかもしれません。

常に破滅や悲しみの色をたたえた荒涼たるストーリーと、コードウェイナー・スミスさんの後継者と言わんばかりの広大な宇宙観を背景としていながら、ゲーム画面に表示される攻撃コマンドは「でこぴん」だったり「ビンタ」だったり。そんなどこまでが本気でどこまでが冗談か分からない不思議で不条理な世界観に生まれたストーリーの内のひとつが、この『きせきの扉』です。

物語は、とある宇宙に暮らす一匹の猫が前世の記憶を取り戻すところから始まります。猫はかつて人間でした。彼女が人間として生きていたのは、人の意識がデータ上の仮想空間を走る時代であり、月と隕石の天体事故によって人類が破滅の淵に立っていた時代です。

彼女の過去の記憶は散文的で、決してまとまりはなく、おそらく収束してもいません。けれど、そこで語られる情景は刺すように痛切で、人に強烈な印象を与えます。似た方向性を持つ作家として一人挙げられるのは、漫画家のきづきあきらさんでしょうか。決して単なる気持ちよさだけを得られる作品ではありませんけど、読後の心に何かを落としていきます。

こういった作品がWEBの大容量の海の中に埋もれてしまうのは、とても勿体ないことだと思います。あっちの業界で『シンフォニック=レイン』が埋もれてるのと同じくらい勿体ないです。ただし、安価でないお金を払った上に十数時間のプレイ時間を費やしてはじめて傑作と判明する『シンフォニック=レイン』と比べると、この作品は敷居が低く手ごろです。

最初に書いたように、プレイ時間はほんの少し。容量も1MB程度と非常に軽いです。ついでに選択肢もありません。そんな手間にはなりませんから、ちょっと騙されたと思ってプレイしてみてはいかがでしょう。この作品が人目に触れる機会が、少しでも増えればいいなと思います。