『DIVE!(上)』があまりにも真っ直ぐすぎて

DIVE!! 上 (角川文庫)

わ、これは面白い。王道な、あまりにも王道なスポーツもの。たとえ王道であろうとも、ここまで正面から本気で王道を貫くと一種のオリジナリティのようなものが発生するのか、と驚かせてくれる作品です。なんの変哲もない正拳突きでも、その一撃でコンクリート壁に穴を開けてしまえば、そりゃあ十分なインパクトがあるでしょう。

題材となるのは水泳競技の飛び込み。10メートルくらいの高さの台から飛び込んで、回転しながらプール着水するというアレです。待遇面で恵まれないマイナーな競技である反面、選手の絶対数が少ないため一人一人に開かれたチャンスも大きいこの競技。その特徴が、本作では作劇上有効に使われています。国内でも数えられるほどしか選手がいないという単純さが、お話に対して明瞭な目的をもたらしてくれているのです。

登場人物たちはとても魅力的で、個性的ですらあるんですけれど、それをいざ文章で紹介しようとすると、彼らが決して目に見えて奇抜な特徴を設定されているわけではないことが分かります。奇抜な設定ではなく、あくまで作中で描写することによって勝負していて、これもまた王道的。きめ細かな抜群の表現力が、遺憾なく発揮されていました。