『神狩り』

神狩り (ハヤカワ文庫 JA (88))

情報工学の若き権威である主人公が、とある遺跡で発見された古代文字を解読しようとしたことから神との戦いに巻き込まれて行くお話。

翻訳不能の古代文字、CIAやナチス、霊感や超能力といった一見インディー・ジョーンズばりのネタが乱舞しますけれど、その展開は常に内省的で論理的。"人間よりも上位の論理レベルに存在する者が書いた文字"を機械翻訳記号論理学の視点から分析する、という導入がまず衝撃的。ここから、読者は序盤から一気に物語に引き込まれることになるのです。

続く中盤では、"神との戦い"がいよいよ表面化。純粋上位の論理に立ち向かう彼らの挑戦はあまりにも絶望的で、深い悲壮感が漂います。そもそも「神を狩る」こと自体が原理的に不可能かもしれず、もしそれが可能だったとしても、現実問題としてそれを成し遂げられる見込みはほとんどありません。そんな状況で、主人公たちは常に「立ち向かうか」「諦めるか」の葛藤に悩まされているのです。

最後はまあ、ぶっちゃけ投げっぱなしなんですけれど、「神に勝ちました」なんて安易に言えるわけもなし、仕方ないかなとは思います。続編も出てるそうなのでそちらに期待。正直神を倒すというテーマをまともに収束させることが出来るのかという不安はあるんですけれど、ともかくその内されるであろう文庫化を待つことにします。

そういえばこの作品、とても文章が読みやすかったです。決して表現が平易というわけではないんですけれど、なぜか一言一句がすっと頭の中に入ってきました。文章のリズムが、たまたま私に合ったのかもしれません。不思議。