ミステリー四大奇書の一冊とやら。推理小説を愛する十人の若者と、そのメンバーの一人が書きはじめた実名推理小説。そこに起こった殺人事件を中心として、現実と創作物が交錯していく様を描いた長編です。
奇数章と偶数章で虚と実が入れ替わるという(でもどちらが虚でどちらが実かは分からない)読者の混乱を招く構成と、登場人物たちの間で交わされる濃ゆい濃ゆい推理合戦がこのお話の二本軸。
四大奇書といえば『ドグラ・マグラ』の果てしないぐちゃぐちゃっぷりの印象が強かったので、それと比べるとまだ整然としていました。入れ子構造は表と裏の二つだけですし、最後には一応の結論も得られます。まあそれでも、中盤くらいからは今どっちの話の中にいるのか分からなくなるような混乱を味わうことができました。
推理パートの方も、入り組んだ構造に負けずわけが分かりません。ひとつの事件に対して五も十も異なる解釈を持ち出していく上に、ひとつひとつの説明がやたら回りくどかったり関係なかったり、それでいてどうにも理屈がおかしかったり。胸が焼けそうになるほど濃密かつ高圧で、ここまで来ると一種の幻惑感まで引き起こしてしまいそうになるほどでした。
それにしても、本格推理というジャンルも分からないものですね。この作品で交わされる推理談義を見る限り、あんまり合理性が重視されているわけでもないようで、むしろ印象に残るのは様式美とかお約束に重きを置く姿勢です。
理屈の面では、やはり仮説を現実に照らし合わせて検証する姿勢が抜け落ちている印象があります。「この解釈で説明できるからこれが真相だ」みたいな意識が登場人物の言動から見て取れました。もちろん粗があると分かってて敢えてやってるならいいんですけれど、これが合理的な推理の過程なんだとそのまま信じてしまう人がいるとしたら、ちょっとどうだろうと思わないでもありません。
