『楽園ヴァイオリン クラシック ノート』

楽園ヴァイオリン―クラシックノート (コバルト文庫)

一年のご無沙汰でしたけど、友桐夏さんのリリカル・ミステリーは健在でした! やああもうたまりませんね。ライトノベル界隈の新人では、ここ二、三年でいちばんの書き手だと思います。

お話の舞台となるのは、「学習塾」という言葉のイメージにはとても収まらない「特別な塾」。貴族的というかハイソサエティな空間の中で、音楽を通じて交流する女の子たちの関係が描かれます。お金のかかってそうな雰囲気の好き嫌いはともかく、日常的に応酬される知的な会話は友桐さんの作品の魅力のひとつででしょう。

今回リリカル・ミステリーというキーワードがタイトルから外れましたけど、中身はしっかりミステリーしてました。なぜこの作家がコバルトなのかとか、そのうち富士ミスの誰かみたいに創元推理に移るんじゃないかとか、読者の間では相変わらず色々言われてますが、たしかに他レーベルの方が大成できそうな作家さんではあります。

友桐さんのミステリーが独特なのは、「謎」や「真相」のポイントを明示してくれない点です。大抵のミステリー作品は、「不可能犯罪」なり「意外な真相」なりの「驚くべきポイント」を一見して理解できるように説明してくれるわけですけれど、友桐さんはそれが野暮であるかのようにすっと流してしまいます。「真相」を読者に委ねるといった種の作品とは違い、そもそもそこに「謎」があったことを指摘してくれないのです。

ただし話の辻褄は合わなくなるので、読者はじわじわとことの真相に気付きはじめます。友桐さんの小説では、この「気付き」に読者自身が自発的に至れる作りになっていて、それはパズルのようなデジタルではなく、もっとアナログな過程なのです。本作の場合、各章に挟まれる日常の謎的な小噺には「謎」やその「真相」という形の分かりやすい提示がされていましたけれど、全編を通して浮かび上がる核心的な「真相」はやはり明言されていませんでした。

本書は独立した単体として読める作品ですけれど、友桐さんの他作品と同一の世界観にあることも、お話の端々から読み取れます。それぞれの作品の背景に透けて見える巨大な物語の流れはそろそろサーガとでも呼べそうな規模になりつつあり、そういうの好きな人の心を猛烈にくすぐります。そういう意味では、オトコノコ心の方もしっかり掴んでくれる作品だなあと思います。とりあえず誰か人物関係まとめてください!

のっけから「特別な生徒しか入学できない特別な塾」なんてお高い舞台が提示されたり、男の子の意地の張り合いとはまた違う女の子たちの自意識バトルが繰り広げられたり、それ自体が魅力である反面のとっつきにくさは確かにあります。作品間のリンクが面白いシリーズなだけに、過去作が品薄でなかなか入手しづらいのも残念です。

売り上げ的に心許ないらしい点だけが本当に本当に心配で、なんとか巻き返してもらいたいなあと思います。とりあえず三作では消えずにこうして四作目が出たわけですけど、まだまだ安心はできない感じ。ああああ、何としてでも生き残ってもらいたい作家さんです。