ジャンル不明。分からせる気があるのかないのか。分からせるためでなく感じさせるために書かれた作品なのだと思います。ふっしぎー。
環境、種族、社会状態など、設定自体はかなり入り組んだ作りになってはいます。設定面に力の入った作品の場合、その設定の説明にも力が入ってしまうのが作者のサガというものかと思うんですけれど、長野さんの場合はそういった気負いが全くありません。
「ライスーン」「アシオン」「燐光」「PRES」などの作品独特の固有単語が、この作品では説明もなしに無造作に登場します。未説明の用語を登場させることによって読者の興味を引く、という表現はよく使われる手ですけれど、この作品の場合そういう感じでもありません。
たとえば「暇なら、珈琲でも淹れろよ。」という発言とまるで変わらないような重みで、「ねえ、誰の《PRES》だと思う、」という発言が出てきて、《PRES》が何なのかという説明は全くないのに会話の流れがはとても自然なのです。読者は結局、世界の輪郭をしっかり把握できないままお話を読み進めるしかありません。
その寄る辺なさは、けれど不思議と心地良いものでもあります。最終的には、一巻の終わりで世界設定の概要が短く語られるんですけれど、それでこの作品が理解できるようになったかというと、むしろ何だかはぐらかされたような感じも受けます。ふしぎふしぎな作品でした。