『ミミズクと夜の王』

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

 舌足らずな主人公の口を通して表現される言語感覚もすばらしいですし、それによって描き出される情感には強く心を動かされます。お話の筋はオーソドックスで、単純な悲しみと単純な救いが描かれているだけですけれど、見るべきはその表現力。

 王道という意味ではあまりにも王道すぎて、記憶には残らないかもしれません。けれど読んでいる間に人の心の形を変え、ちゃんと痕跡を残してから通り過ぎていく作品なのだとも思います。

 ストーリーテリングのスタイルとして面白いなと思ったのは、終盤に差し掛かった頃、何人かの登場人物がひとつの目的のために行動し始めたあたりです。ひとつひとつのシーンに割かれる頁数はこの頃から急に少なくなり、二ページや三ページといったサイクルでどんどん場面転換しながらお話が進んでいくようになります。

 つまり、物語が加速するのです。この加速は、ワンシーンを読むごとにかかる時間の減少と、単位時間あたりに与えられる情報量の増加という形で、読者がダイレクトに体感できるものです。こういった表現自体は決して珍しいものでもないですけれど、本作ではそれが特に上手くキまっていたと思います。