『水滸伝(三) 輪舞の章』

水滸伝 3 輪舞の章 (集英社文庫)

 青面獣楊志さんや行者武松さんに焦点が当てられ、同志たちの中心人物である宋江さんにも大きな動きが見られる第三巻。そしてこの巻で、梁山泊の最大の敵である青蓮寺の思想もだんだんと見えてきました。

 あらゆる策謀を用いて国を支える青蓮寺ですが、意外なことに腐敗した政府を嘆いている点は梁山泊と同じです。ただし彼らの最終目標はあくまでも国を守ることで、そこが民の視点から世直しを考える梁山泊とは決定的に異なります。目的のためなら手段を選ばない非情な敵としての描写は一貫していますけど、主人公たちに倒されるために用意された単なる悪役とは一線を隠した魅力が感じられる集団です。

 これまでは梁山泊の魅力が一方的に語られてきましたけれど、青蓮寺の登場によって異なる志を持った集団が敵方に据えられたことになります。梁山泊勢力が破竹の勢いで成長してきたこれまでと打って変わり、今後は敵と味方に分かれての駆け引きの面白さが新たな要素として加わってくるのでしょう。

 ここまで読んでの印象ですけれど、このお話は女性がよってたかって貧乏くじを引かされまくりですね。主人公である108人の同志が全員*1男性という原作の都合もあってか、彼らの動機付けのために死んでいく引き立て役のような位置づけの女性がやたら多いです。

 その構図があまりにも徹底しているので、これが北方さんの男女観なのかのしれません。(「ソープに行け」の人だし……) とはいえ、山田風太郎さんの千姫のような女傑を北方さんが書いたらどう活躍するのかも見てみたいところではあります。

*1:全員じゃなかった―。女性が三人いるんですね。