たのしい神話(2-3)「悪いのは全部アルセスです」
さて。「利発で気さくな少年神」だったアルセス神は、神話記述者の陰謀によって「お尻を掘られまくる総受けキャラ」にされてしまいました。ところがここで、アルセス神を復権しようとする運動が起こります。仮にも自分たちの世界系を代表する主神が単なるガチホモでは都合が悪いとでも考えたのでしょう。
ここで提示されたアルセス像は、今までのアルセスにない新鮮なものでした。その特徴を次に列挙します。
- 邪悪・残忍
- 奸智に長け狡猾である
- 神出鬼没
- 名を隠し、世界中の至るところで暗躍している
- わざと核心をぼかした思わせ振りな発言を多用する
- 女性を誑かしていいように操る
- 高いところに昇りたがる
- CV:石田彰
- 最終話で正義の味方に敗れて惨めな負け様を晒すタイプの小悪党
- 根拠のないその微笑は何なんだ
- アルセスとか死ねばいいのに
最悪ですね、はい!
この頃になると、アルセスは北欧神話のロキのようなトリックスター的な性質を帯びてきます。その結果、主神にしてトリックスターという変な神格が出来あがってしまいました。「よく分かんないけどいつもなんか悪いことを企んでいる」というろくでもないキャラクターが定着したのです。
それと同時に、「世の中の悪いことは全部アルセスが暗躍した結果なのだ」という風潮が一般化しはじめます。そうして、いつしか「悪いのはアルセスです」という言い回しが慣用句化されました。さらに、「このアルセス野郎!」という罵倒語も生まれます。アルセスという存在、それ自体が罵倒の対象だという感覚なんですね。
このように、アルセス神はその成立過程においてイメージが二転三転した神でした。「イメージが連続的に変動する」という性質は、アルセス神に限らずこの神話体系の全ての要素に言えることです。既にある程度のイメージが定着した神話であっても、後から更に強烈な神話的記述を重ね書きしていくことで神話イメージの「書き換え」が可能だということ、アルセス神はその最も代表的な例と言うことができるのでしょう。