『SCAPE-GOD』

ScapeーGod (電撃コミックス)

 同作者の『SYNTHIA THE MISSION』の感想は「面白い」でしたけど、本作は躊躇なく「凄い」と形容したいです。20代のうちに描いていい漫画じゃない、とすら思いました。

 いかにも「今風」の絵柄や大量のパロディ群に騙されそうになりましたけれど、この作品は「現代」や「最先端」に留まるものではありません。過去を継承しつつも時代性や正統な進化の指針を吹っ切って、自分の身体ひとつを抱えて未踏の原野に挑んだような作品です。

『SYNTHIA THE MISSION』二巻のときも思いましたけど、高遠さんは自分自身の「倫理」と向き合うことに対して非常に誠実な作家さんだと思います。高遠さん自身は界隈の用語を大量に用いるような小難しい考え方をしているわけではないように思うんですけれど、納まりのいい類型的な落としどころで満足できる人でもないようです。

 たとえば数学でいえば、単に暗記しただけの公式を機械的に使うことをよしとせず、その意味や証明までを自分の頭で理解するまでは納得しない種の態度。高遠さんがそういう態度を貫いているからこそ、この作品は体系からの引用を大量に投入しているにも関わらず、そこに引き寄せられるだけでは終わらない独自性を持てるのだと思います。

 本作が面白いのは、そういった作者の思想がお話の展開にダイレクトに反映されていることだと思います。同じ高遠さんの作品でも『SYNTHIA THE MISSION』には格闘漫画という枠があって、その制約から外れることはなかなかできません。たとえば、主人公とライバルの決戦を一ページで流す、なんてことは許されないことでしょう。

 ところが、物語のお約束にほとんど従う必要のない本作では、上のような展開が本当に可能です。お話は先に進むに従って長期化どころかぐんぐん加速し、ラストの突き抜けたような結末も投げっぱなしという感じが全然しませんでした。

 だからきっとこの作品の展開は、高遠さん自身の思想と一対一に対応したものになっているのだと思います。こんな漫画、他の人に描けるとは思えませんもん。『SYNTHIA THE MISSION』の高遠さんらしい部分をより先鋭化したような作品だと思うので、『SYNTHIA THE MISSION』のそういう部分が好きな人は是非とも読んでおくとよいと思います。