『ヒストリエ(4)』

ヒストリエ(4) (アフタヌーンKC)

 待ったのは二十ヶ月、読んだのは二十分。この刹那さもまた漫画を読むことの醍醐味ですね! すみません無理言いました。

 目前に迫ったギリシア人との決死戦を前にして、ただ淡々と「その時」を待つ町民が印象的でした。土地を追われるかどうかの瀬戸際に立った彼らですけど、「刺し違えてでも町を守る!」というような気概にはいまいち欠けます。

 彼らにあるのは「せっかく先祖が手に入れた土地なのに今さら出て行けないしなあ」というなんだか流れに任せるような雰囲気で、積極的に敵と戦おうという特別強い感情があるわけでもないようです。戦争に挑む態度にしてはいささか消極的過ぎるようにも見えますけれど、生死が身近にあったこの時代にあっては結構ありえる感覚なのかもしれません。

 戦闘が始まってからの鮮やかな戦術も面白いんですけれど、戦闘が始まるまでの緊迫感がまた嫌な汗ダラダラでたまりません。岩明さんはこういったタイミングでの「人の生死」について一切の容赦をしない人だと思うので、本当にこっちの寿命まで縮まる思いです。

 主人公のエウメネスさんは無欲ともいえる善良さの中にスキタイ人の残酷さを秘めているんですけれど、二つの性質が不整合を起こしていないのが面白いです。普通なら自分の中の善性と残酷性に思い悩むようなお話になるところですけど、少なくとも今のところのエウメネスさんにそういう葛藤はありません。

 彼の二重性に困惑しているのは本人よりもむしろ周囲で、本人はいたって自然に善良さと残酷さを自分の中で両立させているようです。今後この二重性が問題になってくることがあるのかもしれませんけど、このままずっと安定し続けるとすればそれはそれで新鮮な人物像になるだろうと思います。