『流血女神伝 帝国の娘(上)』

帝国の娘〈前編〉―流血女神伝 (コバルト文庫)

 ひゃあうまい。ただの村民だった女の子が突然王侯貴族の政争に巻き込まれ、男装して社交界に紛れ込む……という王道的な筋書が、とてもストレートな面白さを生んでいます。ゆくゆくは少女小説史の古典として名を残すような、歴史ファンタジー系の良質な少女漫画を読んでいる気分です。

 皇族の子弟として、さらには人としても完璧な「少年」を演じつつ、人目を忍んではやんちゃな村娘の不遜さを顕わにする主人公の変わり身は見ていて楽しいです。でも、この人を惹きつける「少年」として振る舞うことが、いつしか「娘」である彼女本人の人格をも豊かにしているように見えるのは興味深いです。

 さすがコバルトというか、男性キャラクターがえっらい魅力的です。主人公の教育係となるエディアルド様、この人が冷血美形の朴念仁という感じでもうこれでもかというくらいの萌えキャラです。これはよい少女小説であることよ。