『流血女神伝 帝国の娘(下)』

帝国の娘〈後編〉―流血女神伝 (コバルト文庫)

 上巻の感想を書いた直後から読み始めて、そのまま下巻も一気読み。一日に長編小説を二冊も読みきったのって何年ぶりでしょ。たしかブギーポップシリーズでライトノベル初体験したときに一日二冊くらい読んだ気がするので、ざっと八年ぶりくらい*1になるかもしれません。すごく「読ませる」作品でした。

 中盤を過ぎるまでは「微笑ましい」とさえ言える皇子たちの交流が描かれるわけですが、そもそもが政界の権謀術数から始まったこの作品。提示される現実はやはり何よりも過酷です。

 並みの作品であれば、お忍びで酒場にたむろして民の声に直に触れるような話の分かる王は、問答無用で「良き王」として扱われるところでしょう。ところが本作では、そんな「良き王」が政界の強大さの前になす術もなく屈服し、醜態すら晒していくことになります。

 たとえば今は"堕落した傀儡"と成り果てている皇帝からして、皇子時代は民意に触れようと市井に下りていたかつての仁君として描写されています。その「仁君」の姿は、宮で交流を深める善良そうな皇子たちとダブります。皇子たちを好人物として描きながらも、「それだけでは駄目なのだ」ということを本作は示しているのです。

 主人公を取り巻く環境がいったん完全にクリアされるところでお話が終わるので、読者は今後の展開がまったく予想できないまま放り出されます。これがまた上手い引きで、そこまでの物語を綺麗に収束させつつ次に繋ぐことに成功していると思います。「氷と炎の歌」なんかと異なり、既に完結が目前に迫っているというのが嬉しい作品です。

*1:今が14歳でその8年前なので、つまり14歳の頃ですね!