萌理学園 短命バカ探偵・十勝つくし15歳

 なんか弱かったのでうちの家来に萌理学園で盗撮させてきた女子高生の生写真を最後に添付しました。通報するなら家来をどうぞ。

 帰宅部そぞろな下校どき、メモ帳片手に駆ける子に背中から声を掛ける。

「十勝さん、いま急ぎ?」

 マリオ風のイカすポーズで急ブレーキ掛けつつ振り返る彼女。制動距離5メートル。

「ううんー。今日はキガネヤの裏の方の廃工場で猫怪人出没の噂で事件のにおい」
「じゃあ僕んちの近くだよ。ついてってもいいかな?」
「いいよー? でもあんた誰だっけ?」

 まあいつもこの調子。声を掛けたことは何度もあるけどいつも忘れちゃうからね。頭の弱い彼女は深く考えず、僕もさふぃさふぃ後についていく。

「ここが猫怪人が出ると噂の工場です! しかし工場とは名ばかりの三階建て吹き抜け廃屋! 雰囲気は十分だし異界とかと繋がりそうね!」
「異世界にもやっぱ雰囲気から入るんだね。ところで十勝さん裏じゃ梁山泊の短命二郎とかけて薄命バカって呼ばれてるの知ってる?」

 やってきた場所は学園から小走り10分、確かにそれなりに雰囲気のある黒てかりした廃屋だった。栄えし頃は岩沢のネジとか作ってたとか何だったとか。柱に触っただけで油べったりすすで真っ黒になりそうだから、服に触れないようにだけ十分注意する。

 勇ましく魔境に突入する十勝さん。僕は多少距離をとりつつその後ろに続いていく。

「名探偵とかちつくち参上! 巷間に恐怖を与え人心を惑わつ猫怪人よ! ただちにここのお縄にちけい!」

 廃工場のどまんなか、噛み噛みで名乗りを上げる十勝さん。あれで本当に名探偵気取りだからたちが悪い。傍から見てると野次馬根性旺盛なオカルトライターあたりが適役といったところだけど、はてさて。

「いない? いないの!? 出てきなよ! 隠れたって私の冴え渡る直観力でビビーンと一発看破しちゃうからね! ……む!」

 考えたことを全て口に出さずにはいられない十勝さん。何かに感付いたようで、コンクリート床の一角にうずたかく積もった木の板にビシリ! と指を突きつけた。人が隠れるには少しばかり小さいけれど。

「そこだーっ!」

 その言葉に呼応するかのように、十勝さんの背後の用具入れがガゴンと開く。中から現れたのは猫怪人。いやもうそう表現するしかないだろう。猫の頭に人間の身体がくっついた怪人だ。ちなみに着衣、しかもなぜかアロハシャツ。全体的な印象として、こんなにかわいくない猫は初めて見た。

「え?」

 見当が外れて振り返ろうとする十勝さん。しかしそれに呼応するように振るわれた猫怪人のネコパンチは、彼女の頭をクリームでも舐め取るようにメロロンと吹き飛ばした。

「やあやあやあ、生物実験室から逃げた化け猫はここに居たのか」

 僕は猫怪人を馴らして丸めて家に持ち帰ってコタツに入れた。その頭を撫でながら安物粉コーヒーを啜る。仕方ない、ロクゼン茶もマイス茶もここじゃ飲めない。

「十勝さんは持ち前のパパラッチ根性でしょっちゅう危険に首を突っ込んでくれるから、後をつけるだけで色々面白いものを見させてもらえるよ。今回こうして君を拾えたのも彼女のおかげさ。感謝してあげないとね」

 その度に死んでは弱くてニューゲームの連続な彼女を不憫に思う向きもあるけど、それにしてもあの子の笑顔は全てを忘れさせてくれる。それに彼女を厄介ごとの目印にすることで、僕もかなり動きやすくなっている。

「そう、馬鹿は救いだよ。よい馬鹿は人生に潤いを与えてくれる。しかも上手く使えば益まで齎してくれる。ただしあまり関わりすぎるのは禁物だ。下手して自分まで面倒ごとに巻き込まれたり、ましてや金を貸したりすることの決してないよう……」
「あんたも馬鹿ねえ。よくない馬鹿ね」

 人語を解する猫は、そう言って喉を鳴らした。

薄命バカ