『矛盾都市TOKYO』

 2005年4月に発売された通販限定本。初版で買ったのに読むの遅! 二年とか積みすぎ! 普通の本屋さんでは入手できませんけれど、通販サイトを見る限り在庫はあるみたいなので今なら多分まだ買えます。

 「電撃文庫」からでない限定販売としただけあって、かなり特殊な作りのご本になっています。主人公の高校生活を描いた超短編が時系列バラバラで一ページに一、二作掲載されていて、更に四ページに一度くらいの割合でイラストページが挿入されるといった構成。

 時系列的終盤の方でドラマ的展開があるものの、それ以外の期間は基本的に主人公を取り巻く緩い日常の小話で成り立っています。もしこれを時系列通りに読もうとすると、読者を牽引する起承転結なドラマ展開が存在しないため結構辛いかもしれません。

 でも実際は時系列をバラバラにする際に終盤の「ドラマ展開」が適度な間隔を空けて挿入されるよう再配置されているので、うまく読者の興味を保てるようになっています。(それでも、それ以外のエピソードが個々に独立していて繋がりが薄いことは変わりないので、一気読みするよりも毎日ちまちま数ページずつ読んでいく詩集のような楽しみ方が適している気はします)

 このお話の舞台となる「矛盾都市」というのがまたけったいな場所で、都市の性質である「矛盾力」の作用で何でもありの空間になっています。具体的には「風」「音」「星」などが住人として普通に暮らしていたり、「病気」や「残念」は殴り飛ばすことで克服できたり、「過去の自分」がその辺をうろちょろしていたり。

 そこに更に「高校生活」といういろいろタガの外れそうな雰囲気も加わって、「新入生歓迎一生決定テスト」とか「体験授業で人間国宝の観察」とか凄く変なノリの日常が醸成されてます。「文字で表現できることなら何でもやってみよう」という作者の姿勢が見えて面白く、一種のボルヘスカルヴィーノ的な感覚すら味わえます。ゆらぎの推薦図書に挙げたくなるような作品でした。