『はじめての構造主義』

はじめての構造主義 (講談社現代新書)

 分かりやすかった気がします。気がしますーというのは、各々の章に書いてあることはすんなり頭の中に入ってきたものの、では結局「構造主義とは何なのか」という根本的な疑問がいまだ十全に解消された気がしないからです。

 これは橋爪さんの説明がどうというより、構造主義のややこしい出自に関係があるのだと思います。構造主義は、レヴィ=ストロースという一人の天才の言葉を周囲の人が様々に解釈・発展させることで生まれたような感じのものらしくって、でもレヴィさんその人がその後勃興する「構造主義」という文脈であまり多くを語らなかったから、肝心な中核の部分がなかばブラックボックス化しちゃってる印象なのです。(ほんまですか)

 だから構造主義には、単純で確固とした「最初の出発点」というものがありません。いま構造主義と呼ばれているのはレヴィの人が確立した「発想」そのものではなく、その周辺の人が「これがレヴィの発想だろう」と解釈して発展させていった様々なものの総体です。

 構造主義という文化圏は、外側は具体例で覆われていながらも中心部分は不定形で掴みどころがなく、それこそシュークリームのような様相を呈しているように思えました。現在そう呼ばれている「構造主義」を理解するためには周辺の様々な応用例を観察していくしかなく、それらに共通する部分を逆算的に推測することではじめてその中核が見出せるみたいな。

 もしこういった理解が見当違いでなかったなら、橋爪さんの仕事はたいそう難儀なものだったんだろうなと思います。本書は概ね、中核であるレヴィ=ストロースさんの発想についての解説に大きく頁が割かれていて、視点が統一されているので理解しやすさは抜群です。逆に、レヴィの人の視点にしか比重が置かれていない以上、その後も変容していった「いま構造主義と呼ばれているもの」全体についての解説が軽いというのが、本書の弱点ということになるのかもしれません。