『水滸伝(七) 烈火の章』
梁山泊の棟梁・宋江一行(五人)を官軍(一万数千人)が包囲する……という異様にテンションの高い状態から始まる第七巻。でもこの巻が終わる頃には更にテンションが高まっているという天井の突き抜けぶりです。
今回は、敵の中枢である青蓮寺の動きに梁山泊と同じくらいの焦点が当てられていた巻だったと思います。宰相蔡京の支援と聞煥章という才能を得た青蓮寺は遂に国を大きく動かす力を持ちます。「暗躍する青蓮寺VS賊徒梁山泊」という構図が「青蓮寺を中枢とした大国宋VS反乱軍梁山泊」という構図に徐々に塗り替えられていく過渡期が、まさに本書の状況なのだと思います。
その聞煥章さん、前巻で登場したときはいかにも冷徹なエリートで何考えてるか分からない若き天才という感じでした。でも今巻で同じ青蓮寺の李富さんを仲間として認め、自分自身の若さをも受け容れて更に上を目指していく姿が描かれていく中で、随分人間味を得たと思います。敵陣の人間の中では最も深いところまで人格が描かれてきた李富さんと同じか、今後それ以上のキャラクターになっていくのかもしれません。
極めつけは、一丈青扈三娘さんの凛とした美貌を目の当たりにした際の彼のうろたえっぷりです。北方水滸伝にかっこいいキャラクターは数いれど、ここまで「萌えキャラ」としてニヤニヤ出来るキャラクターが登場したのは初めてのことではないでしょうか。ああもうこれはたまりません。
扈三娘さんといえば、彼女はこの作品の中で始めて登場する「梁山泊の女性」ですね。本シリーズに登場する女性は不遇というか、「英雄」である男性が戦っていく動機付けのために死んでいくようなパターンが多かったので、「英雄」の側に立った女性を北方さんがどう描いてくれるのか興味を持ちつつ眺めてみます。