『伊豆の踊子』

伊豆の踊子 (新潮文庫)

 みんなが川端さんのことをロリコンロリコン言ってた理由が分かりました。はあ、まったく。ロリコンがどうかはともかく、いつも男性が女性を「覗き見る」ような視点が中心に置かれていた気がします。ノーベル賞作家という肩書きのお堅いイメージを崩すのには一役買いそうな感じ。

 旅芸人の踊り子に惚れ、彼女を「買おう」と数日も足取りを追う主人公。ところがしばらくして彼女がまだ十四歳であることが判明し、なんだまだ子供だったのかと性的な欲望を引っ込めた主人公はなんだか温かい気持ちになりました。という。

 同時に収録されている作品は妙齢の女性が扱われていたりするので川端さんが少女偏愛者ということもないんでしょうけど、それにしても彼が少女を神聖視する視点にはなかなか気合いが入っています。他の登場人物が「栄吉」「千代子」とか本名で記述されても、踊り子だけは「踊子」と一般名詞表記が貫かれていたり。

 表題作以外に興味深かったのは『温泉宿』で、これなんかまるっきり『苺ましまろ*1ですね。温泉宿と娼婦宿を舞台とし、そこに生きる女性たちの殺伐荒涼とした流転を描いているという雰囲気の違いはありますけれど、女性たちだけの生活をどこかから覗き見ているような感覚が一致します。

 あるいは、性的な隠喩や死や転落のイメージが濃厚なこの作品は、映画『エコール』*2にも近いものがあるかもしれません。「覗き見る視点」というのはこういうものなのかと、ようやく実感できた次第です。

*1:とか言いつつ未読なので詳しいこと分かりませんが!

*2:これもちゃんと見てませんけどね!