『Boy's Surface』 - 円城塔ってそんな難しくないですよ

Boy’s Surface (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

 円城塔さんの作品に対してよく言われる「理解できない」「何を言ってるか分からない」といった評価は、正直ちょっと穿ちすぎなんじゃないかなと思います。世の中には「SF」というジャンルがあって、本書もそういう視点で読まれることが多いですけど、皆さんちょっとその文脈に引っ張られすぎではないですか。*1

 たとえば「巨大花嫁と一個大隊の戦闘という形で描写される結婚式」。この表現について、これは一体何の比喩なんだとか、円城塔は一体何が言いたいんだとかで頭を悩ませている面々が多いようです。

 でも、そんな裏ってあるのでしょうか。「巨大花嫁と一個大隊の戦闘」って書いてあるんですから、「巨大花嫁と一個大隊の戦闘」という表現そのものをまずは受け容れればいいじゃないですか。別に想像力の限界とか難しい話でなくて、頭の中で映像化するまでもありません。もうほんとそのまんまベタに「巨大花嫁と一個大隊の戦闘」という文字面=surfaceを受け容れるところからはじめればいいと思います。

 もちろん作者の意図というものは存在しますし、そういうものを読み取れれば作品の面白さも増すでしょう。でもまずは、目の前にある表現そのものを鑑賞した後でそういった裏読みをすればいいと思います。れっきとした表面があるのに、それを無視してひたすら裏側だけを注視していたら、そりゃ確かにわけ分かんなくなりますよ。いえたしかに数学的なネタなんかはそれと別個に理解しないといけない部分なので、やっぱり難しいといえばそうなんですけど。

 だから円城さんの作品は、グレッグ・イーガンさんの『ディアスポラ』とかよりも、ホイヘ・ルイス・ボルヘスさんやイタロ・カルヴィーノさんの幻想小説の方がよほど考え方が近いのだと思います。多分もっと書いてあるがままに読んだ方が分かりやすそうですよというお話でした。各作品の感想は後日あらためて。

*1:根底が数学ではあります。でも、数学的なワードが出た途端「これはSFだ」と判断するのは気が早いと思うのですよ。