『水滸伝(十二) 炳乎の章』

水滸伝 12 炳乎の章 (集英社文庫 き 3-55)

 燕青さんがとにかく凄い一冊でした。頁数として考えると、実際に燕青さんが活躍してる場面はさほど多いわけではないんですけれど、読後に残る印象は強烈です。林冲さん、史進さんといった梁山泊でもスタークラスのキャラクターに匹敵する個性を、この一冊で一気に獲得してしまった感じです。

 燕青さんと、その主である盧俊義さんの関係が面白いです。美青年である燕青さんと、それを溺愛する大富豪盧俊義さんという組み合わせからは、もうBLっぽい雰囲気がぷんぷんするんですけれど、それを北方さんはこう料理してしまうのかと。これはこれで萌え殺されそうになりました。

 その裏でまた色々やってる関勝さんと宣贊さんのペアも、どこか稚気があって面白いです。原典では「醜い武人」だった宣贊さんを「恐ろしい傷跡を覆面で隠す元美男子」というキャラクターに変え、関勝さんの参謀に配置し直すことで生まれた新しい関係性はとてもユニークだと思います。

 官軍から梁山泊に転向するということで、関勝さんの立場は秦明さんや呼延灼さんに似ています。でも、三者三様に入山の状況がちゃんと書き分けられて、ぜんぜんパターンに堕ちていないのは流石だなあと思いました。