『エナメルを塗った魂の比重』 - 村上春樹のオシャレネタをオタクネタに交換したらきっとこんなかんじですよねー

エナメルを塗った魂の比重<鏡稜子ときせかえ密室> (講談社文庫)

 これはひどいこれはひどい。気分を害したい時は、とりあえずこの人の小説を読んでおけば間違いはありませね!

 露悪の限りを尽くしたいという感じで、相変わらず胸の悪くなるキャラクターばかり。人喰い通り魔の女子高生や職業殺人者が、登場人物の中ではまだしも嫌悪感少ない部類だったりします。それでも前作『フリッカー式』ほどの気持ち悪さを感じないのは、「一人残らず性格悪い奴ばかり」という風に、悪意があくまで悪意として描かれていたからかもしれません。

フリッカー式』の方では、主人公のどうしようもない悪意や責任転嫁が、まるで悩める青春の爽やかな一ページとでも言わんばかりの小洒落た筆致で描かれていました。その辺の、肯定すべきが何で嫌悪すべきが何かという倫理観がエラーを起こしたような感覚が、今回はありません。良くも悪くも、「嫌な話」として分かりやすくはなっていました。


 解決と真相について。佐藤さんの描く、こういう本当にどうしようもない解決編が、私はけっこう好きです。たとえば密室殺人を解決するためのもの凄く安易な方法は、超能力で壁を通り抜けましたとかのトンデモを持ち出すことです。でも佐藤さんの場合、トンデモな後付け設定の登場がお話を安易に片付ける方向に作用することはなく、それどころか状況をますます複雑で分けわかんないものにしてしまいます。

 なんでわざわざあんな捩じくれててこんがらがった真相を持ってこようとするのかとか、そもそも最初に何をどう意図したらこんなどうしようもない構図を描こうという気になれるのかとか。お話の構造そのもの以上に、お話の描かれた背景というものがものすごく不可解で、その辺に強い興味を感じたりもします。


 作中、「分かる人にだけわかる」というアニメネタがやたらと頻出しますけど、これって村上春樹さんの小説でよく分かんないマイナーな洋楽や洋酒が出てくるようなものですよね。というアプローチを考えたんですけど誰か賛同しませんか。読者の大半が知らないような洋楽や洋酒が雰囲気作りのための小道具として機能するんだから、それをアニメやコスプレに置き換えて何が悪いんじゃー!
 
みたいな。