『ネフィリム 超吸血幻想譚』

ネフィリム―超吸血幻想譚 (角川ホラー文庫)

「助けてー。早くしないとあたし、この人に犯られちゃうわー」

 人知を超えた力を持つ吸血鬼VS人間が科学武装した吸血鬼殺戮組織VS吸血鬼を凌駕する第三の怪物ストーカー。『ΑΩ』みたいにファンタジーを無理やりハードSFの文脈で解釈したというよりも、古き良きB級ホラーバトルを狙ったよーという感じ。上に引用したセリフのチープっぷりが素晴らしいです。

 作者が『ΑΩ』を描いた人であることを意識しすぎると、期待されるところよりあっさり薄味に感じられてしまうかもしれません。*1それよりも、『ΑΩ』でいうところの「貧弱ゥ貧弱ゥ」みたいなどうしようもないネタが詰まった作品として笑いながら読むと楽しめそうです。それまでずっと吸血鬼ものだったのに、途中からいきなり仮面ライダーのパロディが幅を利かせ出したり。「ボノボだ」とか。

 小林さんの作品の登場人物って、一刻を争う緊迫した場面なのに妙に冷静だったり論理的に思考したりして、その理屈っぽさが逆に間抜けに見えてしまったりします。この作品の吸血鬼たちなんかは、その性質が際立っていました。中途半端に頭が良く、人間より脳の性能がいいため一秒間の間にいろんなことを考えることができ、そのくせ品はあまりよくない。そういう性質のおかげで、実に味のある奇妙な言動を見せてくれるのです。

 内臓ぐろんちょの描写が大好きな小林さんですけれど、ときどきもの凄くロマンチックな作品を描くこともあります。本作も実はその系譜に属していて、最強吸血鬼・ヨブさんのロマンチストっぷりはこれまでの小林さんの作品の中でも随一なのではと思われるほどでした。動機的な描写が弱いので説得力に欠けるところはあるんですけど、続編でますよね? 出ますよね? 少なくとも構想はあるらしいので石の上に座って待ってます。

*1:薄いと言いつつこの濃さか、みたいに呆れることもできますけれど。