差別的でもなお面白い作品があるという当たり前のことを、私たちは認めなければならない - 荒山徹『十兵衛両断』

十兵衛両断 (新潮文庫)

 頭おかしいと噂の荒山徹さんを読みました! 朝鮮妖術! 朝鮮柳生!

 とまああんまりにあんまりな前評判だったので身構えてしまいました。ところが実際に読んでみると剣豪小説としての素の面白さを備えていて、まずはそちらに圧倒されました。史実の曲解捏造も読みごたえ十分なんですけれど、既に高橋克彦さんの伝奇小説で耐性ができていてショック少なかったのは惜しむべきところです。荒山徹さんでびっくりしてる人は高橋克彦さんも併せてどうぞ! (宣伝)

 面白いなあ酷いなあと言いながら読み進めましたけど、最終話の『剣法正宗遡源』はひときわ衝撃的でした。ここにきて一層磨きのかかったパワフルな史実捏造も凄かったです。でも何より、第一話『十兵衛両断』で一度円満に完結した「物語」が今一度ぶり返され、あの感慨も何もかもがめっためたに台無しにされ凌辱されていく様には感動すら覚えました。気分はもう少佐。こればかりは、本当に頭おかしいと思いました。

 で、この作品、全編通して朝鮮人が悪役に配されてこき下ろされ続けます。いつの時代も朝鮮には姦計の徒と妖術師が跳梁跋扈していて、隣国日本が陰謀に脅かされています。まあ日本側の徳川家や柳生一族だって同じくらい陰謀浅からぬ仕業を働いてるし、不思議と嫌味もなくてこれは荒山さんの一種のお茶目なのだろう……というようなことも考えたんですけれど、最終話『剣法正宗遡源』などはもう、そんな弁護の余地もないくらい徹底して韓人を罵倒していて参りました。

 とにかく、お話の筋からして全力で韓人の浅ましさ、心根の醜さを表現することに終始しています。あの驚天動地のシナリオも、あの心震えんばかりに激情溢れるラストの流れも、全ては朝鮮憎さから生じたように思えるのです。後から冷静に考えると、ここまで挑発的でどうしようもない罵倒に徹しているのはやっぱり分かっててわざとそうしてるのかなあとも思えてきましたけど、まあその意図がどこにあるにせよ、この作品が差別的でないとはどうあっても言えません。

 でも、それでも、そんな差別的な視線にまみれているにも関わらず、この作品は異様なまでに面白いのです。いえむしろ、その差別的な視点があるからこそ、本作はここまでの作品になったとすら言えるでしょう。その性根がどれほど差別的であろうとも、面白い作品はどうしようもなく面白い。その当たり前のことを、この本で改めて思い知らされました。