魔王メモ

 私は光栄な身に生まれついた。いつの日か冥府の魔王を討ち果たすため世に現れる勇者、その伴侶となるべく至大神に運命づけられたのが私なのだ。この世界で最も重要な人を支えるために、私は人生のあらゆる時を費やしてきた。それは自分にしか許されておらず、こうして日々の営みを彼に捧げられることが私の誇りと喜びだった。そして、十七歳の誕生日、彼は遂に私の前に現れた。
「えへっえへっ」
「なにこの人きたない、涎たれてる」
「やめなさい、そんな口を利いてはいけないよ」
「気持ちわるい、右目と左目がべつべつの方を向いているのに、私の身体をいやらしく見つめてくる!」
「でへっ、でへへ」
「そんなことを言ってはいけない、この方が勇者様なんだよ」
「ああ、この人には理性がない。とてもくさいと思ったらうんこをたれ流してるのね! あの服は王様が用意したの? でもせっかくの高貴な服が涎と垢とあいつのうんこで台無しだわ!」
「おまえのお婿さんなんだよ……今日からこの方がおまえのお婿さんなんだよ……。この方だけが魔王を倒せるんだよ」
「いや、腰をふってるわ! こいつ理性がないくせに私がどういう人間かはわかっていて、今から待ちきれなくて腰をふっているんだわ! それになんて貧相なの!」
「はあ、はあ、はあ、ほう」
「運命にえらばれたんだよ。おまえはきっといいお嫁さんになれるよ。そして二人で力をあわせてこの世界をすくっておくれ。この方しかいないんだよ」
「押しつけやがって畜生! いいよもう滅んじまえよ!」
「えへっえへっえへへへっ、ほー」
 そして私は運命をねじ曲げて一人で魔王を殴り殺した。全ての女に幸よあれ。