魔王メモ:不老
私は不老の男に会いました。彼は数千年を生きているそうですが、予想していたほど超然としたところは見受けられませんでした。私は問いました、千年を超える永きを生きてこの世に飽きることはないのかと。彼は笑い飛ばすように答えました。人々は、我々を誤解している。いくら不老といえども、人間は忘却するのだ。人は、二十年とか三十年前の出来事を事細かに覚えていまい。同じく、不老の人間は千年前とか二千年前の出来事などほとんど忘却の彼方であり、運よく記憶が残っていたとしてもそれは色褪せすぎていて思い出なのか単なる知識なのかの区別もつかないのだと、彼はそう教えてくれました。そんなだから、彼らは私たちが思うほど飛び抜けて老練ではないし、博識でも枯れてもいない。どちらかというと、だんだんと移り変わる百人もの異なる人間の生を生きているという感覚の方が近いのだということでした。