『ラス・マンチャス通信』

ラス・マンチャス通信 (角川文庫)

 気持ち悪い小説。気持ち悪いにも色々あって、たとえば佐藤友哉さんの気持ち悪さとはぜんぜん性質の異なる気持ち悪さですね。幻想的な不安感、不条理な憂鬱感、そういった描写の積み重ねが澱んだ閉塞的な世界を現出させています。

 描き出される光景は非現実的でありながら、主人公への共感を強く促される作品でもあります。行く先行く先何をしても上手くいかず、不条理な災難が降りかかる。周囲にはろくでもない人間しかおらず、改善の道など示されるはずもなくただ堪え忍んで行かざるをえない。読んでいくうち、そんな憂鬱な沈殿の中に自分自身まで引きずり込まれる思いがしました。

 それにしても平山さん、これだけの作品を描けるひとでありながら、デビュー作である本作以降こういった作風を封印しているというのが驚きです。二作目の『忘れないと誓った僕がいた』は『世界の中心で、愛をさけぶ』の路線らしいですし、Wikipediaには「1作ごとに作風を大胆に変える手法で知られる」とか書いてあるし。それって手法言うんですか! 作品以上にわけのわからない作家さんだなあと思いました。