『HOTEL』
話題のSF漫画! って昨年くらいの話題ですけど。その人のSF観によって良作か傑作かの判断は分かれてしまうかもですけど、まずは外れなしと言っていい作品だと思います。
描かれる世界は基本的に人間視点で、AIの感情表現などもまずはそこに依っています。だから架空倫理的な意味で「人類の進化や限界のその先を書く」というお話にはなってません。でも、そんな人間の思惑を越えて、限界の先に到達してしまう被創造物を何度も繰り返し描写する作品でもあります。
そういうつもりで創ったわけではないのに、いつの間にか途方もないものが予想もしていなかった方向に育ってしまい、作り手だけが取り残されてしまうという状況。それでも、表題作の「HOTEL」はAI自身に人間性が与えられていたので、「人類の遺したものが人類の跡を継いだ」という感覚があります。でも、その裏にあたる「全てはマグロのためだった」なんかは、作り手の意志が被創造物にひたすら置いてけぼりにされ続けるお話になっています。
「HOTEL」も「全てはマグロのためだった」も、進化する科学力によって展開がどんどんスケールを増していくんですけれど、どこまで大事になっても人間(またはその分身としてのAI)側の最初の目的はぶれることなく維持されます。その目的は、実際に目の前で起きている事象のスケールと比べれば、ちょっと矮小すぎるようにも見えてしまいます。それでも、そういった限界を超えた驚異をあくまで「人間視点の側」から描き出すのが、この人の作家性であるように思えました。